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第4話 『季節外れの転校生』

 翌日。


 もちろん学校なんてあんな時間に開いているわけもなく、俺はめでたく担任から大目玉を食らい追加課題を頂戴することになった。

 

 鬱々とした気分で一日を過ごしトボトボと帰っていた時、あの神社の前を通ったので一応立ち寄ってみた。


 しかしソラテラスなんてやつはもちろんいるはずもなく、神社も特に何も変わった様子はなかった。


 夢? 幻? それとも第六感的ななにか?


 俺は特にそういった能力に目覚めた覚えはないんだがな。


 おかしなこともあるもんだ、と思ったが、その時はそれどころではなく溜まりに溜まった手つかずの宿題とありがたく頂いた課題を片付けることが急務であったため即帰宅することにした。


 すぐに帰ったおかげもあってか、俺は結果として睡魔との激しい攻防戦を経て、徹夜でそれらを片付けることに成功した。




 さらに次の日。


 あまりにも代償の大きい必殺技を行使してしまった反動で俺は学校に着くや否や机に突っ伏して予鈴がなるのを待つ羽目になったのだが、貴重な睡眠時間を妨害してくるおじゃま虫が二人現れた。


「よーよータケっち。どうやらお疲れみたいだな?」


「完徹したからな。結構キツイ」


「高校生にもなって徹夜自慢かよ。ダッセえな」


「自慢したつもりは微塵もないのだが」


 こいつは本田。


 中学からの付き合いがあるやつで一言でいえばバカだな。


 ちなみにこいつも昨日までは俺と一緒に宿題未提出のレッテルを貼られていたんだがなんと週末にまとめてやってきて追加課題を逃れやがった。


 ふざけんなよ、俺たちの友情はそんなものだったのか?


「あのスパルタゴリラ野郎サボる奴にはめちゃくちゃ厳しいからな。ふー、あぶね~。お前を見てると頑張ってよかったぜ。努力サイコー!」


「うるさい。お前だって昨日まで俺と同類だったろ」


「昨日までは、な。今はもう違うのだよ、君。はっはっは!」


 そう言って本田は俺の体をバシバシと叩いてきた。


 突っ伏したまま話しているから分からないが、さぞかし癪に触る顔をしているんだろうな。


「それにしてもよくあの量の課題を一晩で終わらせられたね。そこは武夫のポテンシャルがすごいということだね」


 こいつは坂倉。


 こいつも中学時代からの知り合いでクラスが違ったからあまり話したことはなかったんだが、春休みに本田に誘われて一緒に遊んでからはよく話すようになった。


 中学時代は成績トップだったのになぜかこんな辺鄙な公立に来たという変わり者だが悪いやつではない。


 ちなみに今更なんだが武夫、は俺の名前でフルネームは福井武夫(ふくいたけお)という。


 シンプルで分かりやすい名前だろ?


「だろ? 俺だってやればできるんだ。褒めてくれてもいいんだぞ?」


「いや、褒めるもなにも毎日コツコツやってればこんなことにはならなかったし完全に自業自得でしょ」


 うん、返す言葉もない。


 すると本田がいきなり語気を強めて話し出した。


「おい、そんなどうでもいいことよりもだ。今日はこの天才ジャーナリスト、本田様が超スーパーニュース情報を仕入れてきたぜ」


 意味がかぶってるぞ。


 あと俺にとっては極めて重要なことだったんだが?


「何? そこまで言うってことは本当にビックニュースなのかな」


 坂倉が言うと本田は自慢げに語りだした。


「聞いて驚けよ。なんとだな、今日うちのクラスに転校生が来るらしいぜ」


「転校生? こんな時期にか?」


「へえ、珍しいね。まだ新学期が始まったばかりなのに」


 入学一週間で転校? 相当特別な事情があったのかもな。


「しかもだ。その転校生、なんと女子らしいぞ」


 本田はさらに声を大にして話す。うるさい。


「これはチャンス到来だな。その子もいきなり新しい学校に来て不安だろうからさりげなくなじめるようにフォローしてそれをきっかけにお近づきになる。最高のプランだぜ!」


 こいつ何言ってんだ? 


「絶対その子は美少女に違いない! これは確定事項だ」


「何を根拠にその人が美少女だと断言できるの?」


「まさかお前、転校生の女の子は美少女だと決まっているというのを知らないのか?」


 いつどこでだれがなぜどのように決めたのだろうか? 


「というわけで作戦会議だ。まずタケっち、お前がその子に話しかけろ」


「なんで俺なんだよ。言い出しっぺのお前がいけよ」


「俺は最初から話しかけるようなガツガツした男だと思われたくないんだよ」


 お前は俺をそのガツガツした男にする気か? 


「次に坂倉がタケっちの話に乗っかってそれで――」


 具体的な作戦を話す本田だったが、ぶっちゃけ他人の昨日食べた朝飯くらいどうでもいい話だったので俺は作戦会議から早期離脱し睡眠に集中。


 そして本田が作戦を話し終えるとほぼ同時に予鈴がなりほどなくして例のスパルタ担任が入ってきた。


「そんなわけでお前ら頼むぞ」


 頼まれても聞いていなかったからな。遠慮なく無視しよう。


「えー、じゃあ今からホームルームを始めるが、その前にお前たちにお知らせがある。もう知っている者もいるかもしれんが今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになった」


 担任がそう言うとクラス全体に一瞬にしてざわつきだす。


「入っていいぞ」


 担任が入室を促すとその時期外れの美少女だと予想されている転校生は姿を現した。


 突然だが人生の中で目を疑う、なんていうことは何度あるだろうか?


 経験値が少なく世界に初めて触れていた小さな頃は誰しも自分の中のわずかな知識では考えられないものを見たときは目を疑ったこともあるかもしれない。


 しかし高校生ではどうであろうか。


 ここまで十五年も生きて来て中学校も卒業し、入試も突破してある程度の知識と経験を積んできた高校生が目を疑う、自分の目の前に広がる光景に対して理解を示すことができない状況に置かれるということはそうそうないのではないだろうか?


 だが、俺は神に誓って言うことができる。


 俺は今、この瞬間、確実に目を疑っている。


 なぜだかお分かりだろうか。


 なぜならそこには一昨日神社で出会った謎の白髪碧眼中二病美少女が立っていたからである。

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