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第42話 『運命の屋上」

 オロチを撃退して家に帰るころにはすでに太陽が日本を照らしており、刹那も眠ることも許してくれなかった。


 俺は街を守るという大義を果たしていたにも関わらず学校を休むことさえできず、今は鉛のように重くなった体を酷使しペダルをこぎ続けている。


 周りの生徒たちは連休明けの憂鬱を少しはのぞかせているものの、数日ぶりの級友との再会に笑顔を見せている。


 片や俺はダルそうな目、クマがひどい顔、だらしない服装。

 これほど対比関係を象徴するものもない。


 学校に到着し駐輪場に自転車を止め玄関へと向かう。


 ロッカーを開け、靴を入れようとするとヒラリと一枚の紙切れが宙を舞った。


 なんだよ、誰かロッカーにゴミでも入れやがったのか?


 頭が十分な睡眠を得られなかったせいか、短絡的かつ乱暴な思考しかできない。


 拾い上げるとそこには達筆な字でこう書かれていた。


『今日の5時に屋上に来てください 待ってます 奈良』


 一気に眠気が吹き飛んだ。


 読み終えると俺はすぐさま紙をバッグにしまう。

 そして靴をロッカーにしまいながら思考を整理する。


 奈良から誘ってくれたということは例の語り合いというやつだろうか。


 昨日読み終えたばかりだから本はカバンに入れてあるのでちょうどいいタイミングだな、と思ったがそれなら屋上じゃなく図書室などのような場所に呼び出すはずだ。


 もしかしてたちの悪いイタズラか? 


 イタズラなら俺の慌てる様子を見て楽しんでいるはず、と思ってまわりを見回すも俺のことを見ている生徒は一人もいない。


 教室に向かう間も考えを巡らせ続ける。


 本当に奈良なのだろうか。


 いや、ここで誰かがいないからといってイタズラの可能性が消えたわけではない。


 実際に屋上に行くと奈良ではない本田みたいなやつが待っていて「やーい、引っかかった引っかかった。わはは」ということもあり得る。


 教室に到着して自席に座り教科書を机にしまっているとなにやら視線を感じた。


 顔を上げると教室の前の方で話していた女子グループの中にいた奈良と目が合った。


 手でもあげて挨拶しようかとも思ったが、奈良は目が合うや否やすぐさま目を逸らし頬を少し赤らめる。


 その様子を見て俺の脳裏に連休初日の光景とその時導き出したある結論が浮かんできた。


「…………」


 マジ?




 運命の放課後になった。


 目が驚くほど覚める清涼系菓子を軽く凌駕する衝撃的な事実により俺は普段舟をこいでいる午後の授業さえ起きて聞いていた。


 あまりの衝撃に鉛のように重かった体が嘘のように軽くなっており、屋上へ続く階段をスイスイと上っていく。


 まさか俺の人生でこんなことが起こるなんて。


 階段を上り終えドアの前で身だしなみを整える。


 意を決してドアを開けると茜色の夕日に照らされた広く開放的な空間が広がっていた。


 頭上は空に覆われ、転落防止の鉄の柵以外は何もない。


 奈良は本当に来るのか、と疑っていたがドアから数歩いったところで奈良は柵の上に組んだ腕を乗せて遠くの景色を眺めていた。


「すまん、待たせたか」


「ううん。時間ぴったりだね。来てくれてありがとう」


 声を掛けると奈良はニコリと笑って俺に向き合う。


「それでなにか用か」


「うん。ちょっと、ね……」


 いつもの歯切れのよさは鳴りを潜め、奈良は話すことをためらっているようだ。


「そ、その前にこの間私が貸した本どうだった? 全部読んでくれたかな?」


「つい昨日読み終えたところだ。まさか最後に女子二人がくっつくなんてな。片方の女子が男子と付き合っている女子を略奪するなんて思ってもみなかった。恋敵として競い合っていたライバル同士がいつの間にか互いを好きになるとは。めちゃくちゃ面白かった」


「そうなの! まさかの女の子どうしがくっつくなんてね。私もビックリしちゃったけどすごいいいお話だなって思ったの」


「今日持ってきたからあとで返すよ。ありがとう」


「うん。で、でもね! 今日はそれを話にきたんじゃなくって、他にも用事があるというか……」


 俺は黙って話の続きを待つ。


「私ね、どうしても福井君に伝えたいことがあって、それで今日呼んだの。でもこんなこと他の人に聞かれたら恥ずかしくって……」


 奈良は言葉を慎重に選んで積み重ねていく。


 俺もそれに応えるように真剣に向き合う。


 俺はソラとのことから学んだのだ。

 今はただ目の前の一人に対して向き合う義務があるのだと。


 奈良は深呼吸し、覚悟を決めたような目で俺を見つめる。


「福井君、あのね、私と……」


 俺も奈良から目を逸らさない。


「私とっ……!」


 奈良は意を決したように告げた。


「ソラちゃんとのこと、応援してくれないかな!?」

「ごめん!」


 俺は頭を下げる。


 俺は彼女の気持ちに応えることは出来ない。


 奈良は俺より頭もいいし、運動できるし、人望あるし、優しいし、どこをとっても非の打ちどころのない完璧な人間だ。


 俺なんかが告白を断るなんてことおこがましいことだって分かっている。


 しかし俺には向き合い続けなければならないやつがいるのだ。


 そいつと向き合わなければ俺は……ってちょっと待て。


 今、奈良なんて言った?


 奈良とソラとのことを応援? はい?

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