第41話 『神と神』
俺は萌えの神様に作戦を伝える。
「え、でも私そっち系じゃない――」
「それしかありません。筋肉の神様もそう思いませんか」
目で筋肉の神様に援護を求める。
俺だけじゃなく仲のいい人の意見もあれば押しに弱そうな萌えの神様はきっと落ちる。
一瞬戸惑いの表情を浮かべた筋肉の神様であったが、
「そうですね。福井さんのいうとおりもうやるしかないです! 萌えの神様ならきっとできます!」
「筋肉の神様がそういうなら……分かりました。やります! やってやりますとも!」
これで準備は万端だ。
萌えの神様はずんずんと足取りで寝っ転がったままのスサノオの方に向かって歩いていく。
「あれ、ユニ子ちゃん? どうしたの? 何かあった――」
「こらぁぁ!」
この上なく怒り慣れしていないらしい声がスサノオに降りかかる。
ユニ子に怒鳴られると思ってなかったのか、スサノオは硬直する。
「ど、どうしたの? そんなに怒って……」
「みんなで一緒に頑張らないといけないときに一緒に頑張ろうとしない子はどこですか!? あなたですか? あなたですね!」
「……え?」
「でも大丈夫です! そんな元気のない子でもあっという間に元気いっぱいにしてあげます。見ててくださいね」
萌えの神様は大きく深呼吸をしてから言い放った。
「みんなと一緒にがんばらない子は、めっ! でもそんなキミが元気いっぱいになるおまじないをかけてあげる! いくよー? せーのっ、疲労と激痛さん、さようなら! げんきになぁーれ、それ、ずっきゅーん!」
決まったな。
スサノオは目を見開いたまましばらく固まっていたが、手をハートにして突き出すその愛くるしいしぐさにユニ子オタクのスサノオが反応しないわけがない。
「あ……あぁ……あああ! あああああ!!!」
自分が今、何を目撃したのか分かったのか、声にならない叫び声をあげるとともに、
「よしゃあああ! ぴやあぁぁぁ!!!」
モンスターのような奇声を発しながら飛び起きた。
これこそまさに俺たちの作戦だ。
それほど怒らないであろう萌えの神様があえて怒ることによって生まれる怒り慣れていない人独特の可愛さ。
そこに普段ステージ上では発生しえない推しからのお叱りイベントを発生させる。
極めつけは萌えの代名詞、萌えキュンポーズ。
これで元気が出ないなどというユニっ子はユニっ子失格だろう。
予想通り生粋のユニっ子であるスサノオは元気百倍マンになった。
「ユニ子ちゃん、ありがとう。俺、頑張って行ってくるよ! おらあああ!」
スサノオはユニ子の手をガッと握りしめると、ステッキを持ち直してソラとオロチの方へ向かって飛んで行った。
不安と緊張から解放されたのか、萌えの神様はぺたんと地面に座り込む。
「よ、よかった……スサノオさん元気になってくれました~」
「さすがです。やはり俺の目に狂いはありませんでした」
「僕も危うく萌えかけるところでした。素晴らしいかったです!」
俺と筋肉の神様が褒めると萌えの神様はニコっと笑う。
「あとはあの二人を信じて待ちましょう」
俺はスサノオが飛んで行った方向を見つめる。
そこではソラがオロチと互角以上の戦いを繰り広げていた。
八本もある首の攻撃を器用にかわすとともに確実に反撃しオロチを弱めている。
それに俺たちに攻撃がとんでいかないようにしてくれたのだろうか。
ソラがオロチを神社から誘導し、オロチは元々いたくらいの位置にまで戻っていた。
あまりにも慣れすぎていていて忘れていたが、あんな化け物とやり合えるってあいつ、ちゃんと最高神なんだな。
するとそこにスサノオが合流し、見事な連携プレイを決めてオロチを圧倒し始めた。
普段は犬猿の仲である二人であるが、元々そんなに仲悪そうじゃないし、スサノオが萌えの神様に叱られたことなどもあってしばらくは順調にいっていた。
しかし二人の連携攻撃を受けていたオロチの様子がおかしくなってきた。
ついさっきまでソラ達に向かって首を薙ぎ払うなどして攻撃していたのに、それがピタリと止んでしまった。
ソラ達が圧倒しているからそうならざるを得ないのかと思っていたんだが、嵐の前の静けさというか違和感が拭いきれないな、と思っていたその時!
「ヤマアアァァァアアアアアァァァァァ!!!!!!!」
これまでの何倍も大きな声で叫び散らかすとなんと体全体がみるみるうちに白くなるとともにすべての頭から無差別に真っ白な炎を吐き出したのだ。
頭はソラ達を狙っている様子はなく、街がすべて火の海と化す。
「あぶないっ!」
筋肉の神様がそう叫ぶと炎が頭上をまるでレーザービームのように通過し、山に直撃。
木々が一瞬にして塵となった。
「お前ら無事か!?」
「ああ、なんとかな」
ソラとスサノオも退避せざるを得ず、神社へと戻って来た。
「なんじゃあれ! ヤマタノオロチってあんなんなんか?」
「俺が昔戦ったときはあんな姿にはなっていなかったぞ」
「じゃあなんで今は真っ白になったんですか!?」
「多分ソラテラスさんとスサノオさんに追い詰められたせいで暴走してしまったんだと思います! おそらくスサノオさんが以前戦ったときは暴走させる間もなく封印したのでしょうが、今回は復活してから時間をかけすぎたのかと」
「前はあいつが寝てる間にサクッと封印しておいたからな。俺、優秀だな」
「優秀とか言ってる場合か!」
確かにソラ起こしたり、スサノオ萌えさせたり色々やってたからな。
「マズいです……このままだと境界内がすべて燃やし尽くされてオロチが外に出るのも時間の問題です! 今のうちになんとか食い止めないと!」
「面倒じゃのう。もうさっさと倒すしかないということじゃろ? わしに任せるのじゃ!」
「そんなことできるのか? あれだぞ?」
「問題なしじゃ。スサノオ、おぬしはオロチを抑えろ。その隙にわしが必殺技をお見舞いして仕舞いじゃ。ええの?」
「何勝手に決めてんだよ! お前に決定権は――」
「スサノオさん! これが終わったら握手でもサインでもしますから今はソラテラスさんに従ってください!」
萌えの神様は恐怖でおかしくなってしまったのか、ガン決まった目を見開いてスサノオを制す。
「……萌えキュンポーズもう一回してくれる?」
「しますからお願いします!」
「……分かった。でもしっかり決めろよ!」
「うむ。じゃあわしが合図したらおぬしはオロチに技を食らわせるのじゃ。分かっとるな?」
「分かってんだよ! さっさと合図しやがれ!」
ソラとスサノオの周りに気のようなものが集まりだす。
「まだじゃぞ。まだ……」
オロチは炎を無差別に吐き出しており、上空にいようものならすぐさままる焦げになるだろう。
しかしある一瞬だけ、俺たちの頭上に炎が来なくなる瞬間があった。
ソラはそれを見逃さなかった。
「今じゃ! 撃て!!!」
「ドキドキハートであなたを包みこんであげる! めるん、ラブリーストラァァァイク!!!」
その瞬間スサノオが上空に急上昇し、技を放つとオロチに見事直撃。
オロチは悲鳴を上げて炎を止めた。
「クソ姉貴! さっさと決めろ!」
炎が来なくなったためソラは思いっきり急上昇し、オロチを見下ろしながら呪文のようなものを唱えた。
「青き空は理性を表し、赤き太陽は情熱を示す。白き雲は無常を呈し、黒き稲妻は罪を映す。天のもとに生まれしすべての者よ。汝、自らの過ちを認め、これに従い、無垢な空に帰りたまえ。我がその過ちに裁きを下さん! このイカヅチが汝の過ちを焼き尽くそう! 神雷!!!!!!!!」
ソラがそう唱えると同時に目の前が白一色に塗りつぶされる。
あまりの眩しさに目をつむり、想像を絶する爆発音に耳を塞ぐ。
「アアアァァァアアアアアァァァ!!!!!」
ヤマタノオロチの断末魔が響き渡るとともに光が俺たちを包んでいった。




