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第40話 『人は自分だけの武器を持っている』

「オロチのこと言ってなかったのによく助けに来てくれたな」


 俺がそう言うとソラは疑問符を浮かべたまま、


「何の話じゃ? わしはおぬしが気を失って……いや、なんでもない。普通に朝じゃから起きただけじゃ」


 ソラは話をそらすように東に向かって指をさす。


 確かに東の空がぼんやりと明るくなってきているが……何か引っかかるな。


 ソラの夢の中での記憶はある程度はっきりしているのだが、最後の数分間の記憶が曖昧で……そこで何かあったのだろうか。


 なんとか記憶を手繰り寄せようと俺が悪戦苦闘していたのだが、ソラの問いかけにその記憶の欠片は飛んで行ってしまった。


「それよりもあのデカいのはなんじゃ。どっかの金持ちの家から逃げ出した行方不明のペットか?」


「あんな化け物を飼うやつがいるか。あいつはヤマタノオロチだ。覚えてないか?」


 ソラはうーむ、と一度うなると、


「あー、ヤマタノオロチか。確かスサノオが格好つけたはいいものの封印するのが精いっぱいだったやつじゃろ?」


 ご名答。


「じゃがなぜやつが今ここに?」


「お前みたいな力の強い神が目覚めたからそれにつられて起きたって萌えの神様が言ってた」


 俺は萌えの神様の方向に目を向ける。


 そこには炎から助かったことに気づき、念願の金メダルを手にしたスポーツ選手とそのコーチのように歓喜の涙を流している萌えの神様と筋肉の神様がいた。


「まあ、わしほどの神ならそういうことがあってもやむなしじゃな。それよりもあやつはどうするんじゃ」


「スサノオがいうにはもう一回封印するしかないらしいんだが、こっちは見ての通り俺は戦えないし、スサノオも萌えの神様も筋肉の神様も満身創痍だ」


「ふむ。ならわしがそれに協力すればいいのかの?」


「そういうことだ。頼む」


 理解が早くて助かるな。


「全く、世話が焼けるやつばかりで困るのう」


 ソラはやれやれといった様子を見せたのち、


「じゃが、そうじゃな……協力する代わりといってはなんじゃが今週末、別のグルメイベントが開催されるようでの。それに付きあってもらおうかの」


「そんなんでいいのか?」


「そんなんがわしにとっては最高の時間なのじゃ!」


 日の出にも負けないほど眩しい笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう。助けてくれて」


「なんじゃそれ。なんか変なもんでも食うたか?」


「食うか。お前じゃあるまいし」


「わしでも食わんわ! このたわけが」


 いつものソラが戻ってきてくれた。


 ソラはそう茶化すが本当に感謝しかない。


「しかしそうと決まったならさっさとやるかのう。時間もないじゃろうし、あやつを封印しんことには街が壊滅してイベントどころではないからのう」


 ソラはオロチに向かって指さす。


 オロチはすさまじい再生力で首をみるみるうちに回復させている。


 ソラの一撃に対してかなり腹を立てたのか「ヤマアアァァァ!!!」と怒りの滲んだ声で叫んでいる。


 その様子を見たソラは表情を険しくして、


「マズいの。このままではやつが完全回復してしまう。わしがオロチを引きつけておくからその間になんとかスサノオを起こしておれ!」


 引き止める間もなくソラは耳を貸すこともなくオロチ目掛けて一直線に飛んで行ってしまった。


 ソラとスサノオが協力してやっと封印できる怪物を一人でとはいくら何でも無理がある。


 俺はスサノオのもとへ行き、起きるように説得する。


「スサノオ、起きろ! ソラに協力してやってくれ。このままじゃマジでヤバいぞ!」


「今頃出しゃばってきやがって。あいつは今起きてきたばっかだから全快かもしれないけどな、俺はさっきので力を使いすぎたせいで起きるに起きられねえんだよ!」


「そこをなんとか!」


「無理だな。まあでも、メイド喫茶の愛情いっぱいハートケチャップオムライスを食べたらちょっとは回復するかもな」


「お前……こんな時にそんなこと言ってる場合か!?」


「うるせえ、いいから持ってこい!」


 スサノオは思った以上に力を使いすぎているようで、口だけは動かしているものの体を動かせないらしく仰向けに寝転がったままそう言ってきた。


 しかも大嫌いなソラのことだからこんな非常時にも関わらず小学生みたいな悪態をついてきやがる。


 遠くではソラとオロチがバチバチにやり合っているが、いつまでもつか分からない。


 俺はそんなスサノオを無理やりにでも起こすべく、園児のように泣きじゃくっている萌えの神様と筋肉の神様のもとへ駆け寄る。


 近くに行くと萌えの神様と筋肉の神様が抱きついてきた。


「あ、ふ、福井さん! よかった、よかったです~! 私たち助かったんですね、生きてるんですね! ソラテラスさんのおかげです!」


「ありがとうございます! 福井さんのソラテラスさんへの思いが通じたんですね! 僕、感動しました!」


 華奢な体と筋骨隆々な体の板挟みになりながら二人をなだめて言う。


「でもお二人とも、まだ戦いは終わってないですよ。時間稼ぎができたとはいえオロチは封印できていませんし、もしできなかったらまた同じことの繰り返しになってしまいます。ソラも来ましたしこれで条件はそろいました。ここが正念場です。絶対にオロチを封印してライブとお茶会しましょう!」


 二人は涙目になりながらもこくりと頷いたが、萌えの神様が申し訳なさそうに言う。


「で、でも私が力になれる事なんてもうなにも……私は皆さんのように戦うこともできませんし……」


 それは違います、萌えの神様。

 あなたはあなたにしかない武器を持っている。


 それを今、使う時です!


「萌えの神様。一つお願いがありまして……お願いできますか?」

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