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第30話 『神デート』

 スサノオの家に行ってから一週間と三日ほどが経過し、俺を含む日本国民の大多数が心待ちにしていたであろう年に一度の祝日乱れうち週間が明日から始まると言った日のことであった。


 持って帰りはするものの数日間は目にすることはないであろう教科書をカバンに詰め込みながらいつも通り帰宅しようとしていた時、ソラに声を掛けられた。


「今日は一緒についてきてもらおうかの」


 つい二週間前なら図書館に行ったり神社に行ったりしていたわけなんだが、ここ最近は俺たちはちゃんとスサノオと萌えの神様の言いつけを守って捜索などは打ち切っていた。


 そのためめっきりソラとどこかへ行ったり帰ったりする機会が減っていたのだが、今日は珍しいことに帰宅のお誘いが来た。


「いいけど、どうした? 何かあったか?」


 たいていこういう時はソラが何か企んでいて俺を付き添わせようとしているときなので確認のために尋ねるとソラは子供のように目を輝かせながら言う。


「久々の作戦会議といったところかの!」




 俺は徒歩のソラに合わせるために自転車を押しながら歩き、その作戦の内容とやらを聞いていたんだが、それをまとめるとこうだ。


 明日からは先ほども言ったようにゴールデンウィークが始まり、日本各地色々なところでゴールデンウィークフェスみたいなイベントなんかが開かれる。


 もちろんこの辺りも例外ではなく、この辺りで一番大きな街(本田たちと春休みにアイドル見に行った街)にある某イベント広場でGW限定うまいもの祭りというのが開かれるらしい。


 どうやらソラはそれに行きたいらしいんだが、当日は大変な混雑が予想されるため食べてみたいすべての料理を手に入れられない可能性が浮上した。


 そこで俺を連れて二手に別れることによって効率よく料理を購入し余すことなくうまいもの祭りを堪能したい、ということらしい。


 別にうまいもの祭りは一日だけやるってわけではないのだから何日かに分けていけばいいのでは? と思ったんだがソラに聞くと、


「動くのが面倒じゃ。せっかくの休みに何度も混雑に巻き込まれるのは嫌じゃ」


 ということで一日で済ませたいんだとさ。


 動くのが面倒ってこの前の神社巡りの行動力はどうしたんだ?


 あと一日で全部回るって金銭的、体力的にもそうだが果たしてソラの胃袋は持つのだろうか。


「というわけで明日の十時前に駅前に集合じゃ。来なかったらぶつ」


 ぶつってシンプルに怖すぎて逆に行きたくなくなる。


 しかし明日の十時か。


 明日は連休初日だから昼前まで睡魔の意向に従い続けようと思っていたんだが、それくらいはいいか。


 どうせ起きてもやることはないし暇の極みだったからな、一日くらいはどこかに行ってもいいのかもしれない。


 それに仮にも俺は男でソラは女で男女が二人でどこかに出かけるというのだからこれはデートというやつなのではないか?


 俺も一応お年頃の男子である。


 デートというものにはそれなりの興味と関心があるわけであるから、たとえソラという人間ならざるものであり、互いに恋愛の対象として微塵も見ておらず、内容を聞く限りただの使いっぱしりとしか捉えられないものであったとしても今後いつこんな機会が訪れるか分からないのだから乗っておいても損はないだろう。


「分かった。明日の十時駅前な。なるべく遅れないように頑張る」


「遅れてもぶつ」


 こいつ冗談とかじゃなく本当にそうしかねないから怖いんだよな。

 まあ、遅れなければいいだけの話か。




 翌日。


「5、4、3、2……」


「はい、セーフ! ギリギリ間に合っただろ」


「せっかく右手に力を込めておいたんじゃからどうせなら殴られてはみんか?」


「ありがたい限りですが遠慮させていただきます」


 ちゃんと時間一分前に駅前に着くように綿密な計画を練って向かった俺だったが駅前の信号に引っかかり時間をロスしてしまった。


 信号に引っかかったとはいえ待っているソラも見えていたしちょっと遅れたところでさすがにぶたれることはないだろ、と俺は高を括っていたのだが……。


 いざソラが俺に気づいた時にはそれはそれはあどけなく可愛い笑顔で手を振ってくれたらいいな、なんて一縷の望みを持ってはいたが、そんなことはもちろんあるはずもなく両手を広げたと思ったら、十時までの秒読みカウントダウンを開始し始めやがった。


 それで信号が青に変わり次第全速力ダッシュを決め込んできた、というのが現在の状況である。


「さっさと行かんとライバルたちに先を越されてわしのうまいもの祭り完全制覇計画が崩れてしまうではないか。早く来るのじゃ!」


「ちょっと待っ、うおっ!」


 そう言ってソラは息を整えていた俺の手を引っ張って改札へと続く階段を駆け上がっていく。


 階段を上りつつ表情を窺うと晴れやかな笑顔を浮かべており、ロゴTシャツにスカートといったカジュアルな格好がいつも見慣れた制服とは違う雰囲気を醸し出しているため、ここだけ切り取れば本当にカップルのように捉えられてもおかしくはない。


 一応これがデートという認識であるなら相手の服装はソラと言えども褒めておいた方がいいのだろうか? とうんうん唸って決断できずに優柔不断さを露呈させていると電車が来てしまい、電車の中ですぐにソラが詳細な作戦を話し始めたので褒めるタイミングを見失ってしまった。


 次があるかは知らないが次からは気を付けよう、と心に決めてソラの話を聞き、話が終わるとほぼ同時に目的のターミナル駅に到着するが、さすが連休初日。


 押し寄せる大勢の人ごみの中を突き進みながらイベント広場を目指す。


 会場に着くとそれはそれは多くの家族連れやカップル、学生グループなどでごった返しており、様々な料理をごちゃまぜにしたような、食欲をそそるかは微妙な香りが漂っていた。


「これがうまいもの祭りか! おいしそうなもので一杯じゃな! じゅるり……」


 食いものには目がないのか、ソラは目をキラキラと輝かせてまるで行ったこともないところを探検している小学生のようにわくわくした様子を見せる。


「じゃけど予想以上に人が一杯じゃな」


「まあ連休初日だしこんなもんだろ」


「これは早く行かないと次々と食べたいものが売り切れてしまう。それじゃあさっき話した手筈通りにわしは東側を回るからおぬしは西側を頼む! 昼前に中央の広場に集合じゃ、ではの!」


 ソラはそう言ってさっさと目的の店を目指して人ごみの中に紛れてしまった。


「……じゃあ俺も行くか」


 俺も覚悟を決めて人ごみの中に突撃を敢行した。

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