第28話 『猫耳メイドとオタク部屋』
「あの、血出てましたけど止まりましたか?」
「大丈夫大丈夫。柵にぶつかったから鼻血と頭から血が出たけどユニ子ちゃんのメイド姿見れたんだからこんなの出ていないのと一緒だよ。それにしても可愛い……写真撮っていいかな? はあ、はあ……」
そう言ってスサノオはかなり年代物のデジタルカメラを構え始める。
「それは恥ずかしいのでやめてください! あとちょっと気持ちが悪いというかなんというか……」
「恥ずかしがるユニ子ちゃん、最高っ!!! マジ天使!!!」
現在はユニ子によるメイドアタックを食らったスサノオ(というよりユニ子の可愛さに衝撃を受けたスサノオが勝手に自分で後ろに吹っ飛んだだけでユニ子は何もしていない)を家に運び込んで、八畳くらいの部屋の真ん中に鎮座していた机に俺とソラ、スサノオとユニ子がそれぞれ向かい合って座っているという状況なわけだが、なんなんだこの茶番は。
スサノオの口調もいつもの硬派な感じから好きな子の前で照れる男みたいな砕けた口調へと変わっていることに加えて鼻息を荒くしているので正直ドン引きだ。
「スサノオさん、私のことよりも今日は大事な話があるんじゃないんですか?」
「ユニ子ちゃんのメイド姿よりも大事な話なんてあるわけない、と本当は言いたいんだけどね。しょうがない、さっさとこんな話終わらせてこいつら帰らせてユニ子ちゃんとのお家デートを楽しむとするか」
好きな子の前で粋がる小学生レベルの態度の豹変っぷりだな、おい。
「あ、それはすみません。スサノオさんだから特別にお家には伺いましたけどアイドルなのでそういうことはちょっと……」
普通に断られてるし。
しかしスサノオは「そういうちゃんとしてるとこも最高っ!」とか言って全く気にしている様子はない。
「というわけで話を始めさせてもらう。まずはお前たちに重要なことを話して――」
「ちょっと待ってくれ。その前にお前に聞きたいことがある。この部屋はなんだ? お前の服装はどういうことだ?」
数秒前とは打って変わって真面目な表情で話しだそうとするスサノオであったが、いくら俺でもこれは待ったを掛けざるを得ない。
部屋の壁には露出度高めのアニメのポスター、棚にはこれまた露出度高めのフィギュアの他に様々なアイドルのグッズ等がずらりと並び、床にはもはや大事な部分が見えているも同然である、ギリギリの服装のキャラが印刷された抱き枕が転がっている。
極めつけはスサノオの来ている女児向けアニメのプリントTシャツだ。
隣には猫耳つけたメイドもいるし。
スサノオがついて来いというからついてきたはいいものの、この部屋とこいつの服装は明らかにTPOをわきまえていない。
「オタクなんだからこれぐらい普通だろ。それにこういう時はリラックスできる場所と服装のほうがよりよい話し合いができる」
「しかしだな、いくらなんでもこれは」
「気にしなければいいだろ。慣れだ慣れ。それとも目のやり場に困るか? 初心だなー、お前」
俺自身アニメやマンガを見たりゲームなんかもプレイしたりするのだが、家族の目があるからここまであからさまにグッズを部屋に置くことなどはしていない。
それが影響して免疫がないのだろうか?
あと気になる点がもう一つ。
「ユニ子さんはその格好でここまで来たんですか?」
これも重要だ。
まさかの野生のメイド出没となったら普通に見てみたいしな。
「いえ、ここまではお気に入りの服で来たんですが、スサノオさんに先に部屋に入っちゃっていいと連絡が来たので部屋に入ったらこのメイド服が飾ってあってですね。私、こういう可愛い服装みたらつい着たくなってしまってちょっとだけと思って着た直後に皆さんがやってこられて……すみません」
そう言ってユニ子はさっと申し訳程度に猫耳を外したが大して変わらないですよ。
それよりもなんでスサノオはメイド服なんか持っているんだ?
「もうそのことについては一旦置いておくのじゃ。ほれスサノオ、続きを話せ」
際限なくあふれ出してくる疑問ではあったが俺よりもソラの方が早く場に順応し話を進めるように促してくる。
というより喉から手が出るほど欲しい神の世界に関することだから無理やりそうしたのかもしれないな。
するとソラに指図されたのが気に食わないのか、ソラをじろりと睨んだスサノオだったが、ため息をついてそれを流すと、打って変わって真剣な面持ちで語った。
「まず初めに言っておくが、俺たちも神の世界に帰る方法を探している。そして結論から言うと神の世界は今はあるかどうかすら分からない」




