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第26話 『捨てたものにも所有権はある』

「誰かと思えば一夜にして一躍全国的に有名になったジャッジメント・シンじゃないか」


 スサノオに対して皮肉を言ってみると声を荒げて「その名で呼ぶな!!!」 と言うがその名前自分で言ってたのに……これはあれか? 

 

 その時は勢いに任せて言っちゃったけど後から羞恥と後悔が全身を駆け巡る中二病の副作用か?


 それよりももうこいつ来やがった。


 目的は復讐だろうか。それだと厄介だが今回は近くにソラがいる。


 昨日のような敵意や殺意も感じられないから少し様子をうかがってみるか。


「……クソッ。なんで俺がこんな目に。それに言っておくがニュースで報道されていることは間違っている」


「間違っているって何が? テレビで流れていた剣の写真を見たが昨日お前が持っていたものと一致すると思うのだが。重要文化財盗んだらダメだということくらい分かるだろ。ちゃんと返しておいた方がいいし自首するなら付き合ってやってもいいぞ。警察署は坂を下ったところにある」


「盗んでねえわ! あれはもともと俺のもんだったの! ちょっと俺の趣味に合わなくなってゴミ収集に出したら誰だか知らない輩が勝手に拾って勝手に周りのやつも騒ぎ出してなんやかんやで文化財なんかに指定しやがるから取り返すに取り返せなくなっただけだ。あと返すも何も昨日お前らのせいであれ爆発して粉々になっちまったんだぞ! あれがないとオロチ倒せないのに……どう責任取るつもりだ!? あ!?」


 爆発起きた後の校庭に散らばっていた破片はそういうことか。納得納得。


 あと責任取るも何も一回ゴミ収集に出した時点でお前の物ではないと思うし、自分自身の判断であの横文字だらけの必殺技(笑)を繰り出したそうとしてそれの反動で爆発したからスサノオのせいに変わりはないとは思うのだが。


「それで何の用だ。こっちには偉大な空の神ソラテラス様が控えているからな、殺そうとして来ても無駄だぞ。あいつにファミレス奢ればお前なんか怖くない」


「それ自分で言ってて悲しくならないか?」


 それはそうだがさすがにスサノオ相手に生身で挑むのは分が悪いから悲しくなろうが後悔に打ちひしがれようが、命を守るために俺はソラにジャンボパフェだろうがデラックスハンバーグセットだろうがなんでも奢り続ける。


 それだけで命を守ってくれるのなら安いものだ。


「まあそんなことはどうでもいい。俺の記憶が確かならお前昨日去り際に事情があってこうなったとか言ってただろ。今日はその件について詳しく聞かせてもらおうと思って来ただけだ。それにもしかしたらお前たちは俺らと同じ事情があるかもしれん」


「同じ事情? それってどういう――」


 核心に迫る質問をしようとした俺を制止しスサノオは話を続ける。


「ここだと人目も気になるし今から俺におとなしくついてきてもらおうか。安心しろ、もちろん暴力はなしだ。それは約束しよう」


 そう言ってスサノオは両手を上げて何もしない、持っていない、危害を与えるつもりはないというポーズをとる。


 確かにそう言ったのは事実ではあり今のスサノオの発言について互いにすり合わせる必要があるのかもしれないが、俺は一つの懸念事項を口にする。


「俺もそれは説明すべきだとは思うが、なにせ昨日の今日だ。昨日襲い掛かってきた相手にいきなりついて来いと言われてはい行きます、とは簡単には言えないな。ソラも同伴させるという条件付きなら話に乗ってもいい」


 さすがに昨日殺されそうになっておいて対抗手段がなにもないのについていくのは憚られる。


 これぐらいの条件は出しても構わないのではないだろうか。


 するとこれを聞いたスサノオは眉間にしわを寄せ心底嫌そうな表情を浮かべる。


「昨日の戦いを見たお前なら分かると思うが、俺たちきょうだいの仲は最悪だ。顔を合わせただけで言い争いが始まり結局昨日みたいな殺し合いだ。お前が俺を信じられない気持ちも分からないでもないが、とてもクソ姉貴と建設的な話し合いができるとは思えない。だからこうして最低限まともな常識がありそうなお前に話を持ち掛けているんだ。俺を信じてついてきてくれ」


 スサノオからは殺気も感じられないし本当にそう思っているんだろうが、万一のことがあったら……と回答を渋っているとスサノオはため息をつきながら、


「はー、分かった。本当は心の底から嫌なんだが、そこまで渋るなら福井武夫、お前が俺とクソ姉貴との仲介役兼制止係として動け。あいつ、俺を見ると野生動物みたいに脊髄反射的に襲い掛かってくる可能性が高いからな。俺にちょっかいかけてこないように見張る、かけてきたら身を張ってでも止める。これを徹底してくれんだったらその条件を飲もう」


「身を張るのはちょっとな。あいつまあまあバイオレンスな節あるし」


「だから言ってんだろ。暴力女をなんとかして抑えこめ。こちらは譲歩したんだ。今度はそっちの番だろ」


 まあこちらの条件は飲んでもらえたしソラがいれば昨日みたいな最悪の事態は回避できるだろうということで俺も了承し、この議論はこれで決着した。


 その話を伝えるべくスサノオを待機させて校門付近で待っていたソラに伝えると頷きながら、


「つまり今からあやつと果し合いをするということじゃな?」


 この脳筋、話聞いていたのかな?


「いや、そうじゃなくて――」


「あやつ、昨日あれだけ痛めつけてやったのに今日もこのわしを誘い出すとはいい度胸しておるではないか。腕が鳴るのう」


 と少年漫画の悪キャラみたいなセリフを言いながら手をパキポキ鳴らし始めた。


 まだ何も始まっていないのに不安しかない。

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