第25話 『あっ、指名手配犯だ。通報しなくちゃ』
翌日。
殺意というプレッシャーから解放された俺は家に帰るなり爆睡してしまい気がつく頃には眩しい太陽が元気に俺を起こしに来た。
うとうとしながらリビングへ向かう。
そして母親がせっかく俺が起きるタイミングで焼いてくれたのに俺の寝起きが悪いためにぬるくなりバターが嫌な感じにしみ込んでしまったトーストをちまちま口に運びながらぼーっとテレビを眺めていると、美人のニュースキャスターが目が覚めるようなニュースを読み上げた。
『本日未明、国の重要文化財である神器、天羽々斬が何者かによって盗まれていることが判明し現在警察が犯人の行方を追っています。現場は――』
盗まれる前に撮られた写真がテレビ画面に映し出される。
俺の記憶がどこかの研究機関にある謎の装置でいじられるなどの何らかの理由で間違っていなければなんだが、昨日見たぞこれ。
犯人のこと、通報しようかな。
教室に入って窓から校庭を見下ろすと何事もなかったかのように元通りとなっていて運動部のやつらが朝練をしていた。
理由は不明だがスサノオが律儀に元に戻したのだろうか。
それとも可能性は低いがソラが戻したか。
どちらにせよ、元に戻っているならそれでいいか。
ついでに朝礼で担任の様子をうかがうも、特に変わったところは見られなかった。
昨日の今日だ、クラスのやつらは多少ざわついていたが担任は気にも留めていない様子だった。
まあもし昨日のままだったら本当にアヤシイ薬に手を出している可能性が高そうだが。
放課後。
「今日は一緒に帰るぞ」
帰る準備をしているとソラから衝撃発言が飛び出した。
「どうした。お前そんなの言う柄じゃないだろ。何いきなり青春を謳歌する学生みたいなこと言い出してんだよ。熱でもあるのか」
「たわけが。そうではなくて例の話が行き詰っておるじゃろ。それに関して帰りながら今後のことを話し合っておった方がいいと思っただけじゃ。それに昨日の今日じゃ、またやつが襲ってこないとも限らんからの」
まあそうだよな。そりゃそうだ。
こいつがそんなこと言いだしたらそれこそ雪どころか隕石でも降ってくるかもしれない。
「ああ、はいはい。了解」
「うん? もしかしておぬし、わしが一緒に帰ろうとか言ったからちょっと期待しておったのか? 悪いがおぬしのようなパッとしない残念な男は全く眼中にないのでの。期待するだけ損じゃぞ」
「パッとしなくて申し訳ございませんね。ていうかなんで俺がフラれたみたいになってんだよ、やめろ。俺は今までフラれたことないんだからその記録を途絶えさせるな」
「途絶えるも何もおぬしが女子に対して告白していないだけでまだ始まってすらいないじゃろ。さもフラれていないかのように言うんではない。そんなつまらないプライド持っているからモテんのじゃぞ」
ソラといい本田といい大きなお世話この上ない。
「わしは先に校門のあたりで待っておるからおぬしはさっさと自転車を取ってくるのじゃ。ではの」
そう言ってソラは俺が言いたいことを言う前に教室から出ていってしまった。
全く、モテないことの何が悪いんだか。
そりゃモテないよりはモテる方がいいに決まっている。俺はなぜモテない? 俺に足りないものはなんだ? やっぱり顔面偏差値か?
顔面偏差値め、爆発しろという顔面偏差値に対してのやつあたりを繰り返しているうちに昨日えらい目にあった駐輪場に到着した。
駐輪場? あれ? 自転車壊れたんじゃなかったけ? と言う質問が飛んできそうなので答えておくと、昨日学校から帰る時にソラが「疲れたから後ろに乗せろ」とか言い出すのでスサノオにぶっ壊されたと伝えるとおったまげたことにこれまた神の力で直してくれた。
もう神の力のバーゲンセールだ。
まあそういうことで重傷を負う前の姿を取り戻した愛車に俺は跨り、ソラの待つ校門へと駆け出していこうとしたわけなんだが、
「よう。昨日ぶりだな、福井武夫」
昨日と同様に後ろから低く太い男の声が俺の背中に飛んできてぶつかった。
声がした方にゆっくりと振り返ると、そこには昨日とは違いまともな服を着た絶賛全国指名手配中の窃盗犯が立っていた。




