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第24話 『総菜に負けた男(最高神)』

 爆発による土煙が晴れ、状況が分かるようになるまで五分はかかったと思う。


 屋上からでも分かるほど校庭のど真ん中にクレーターのような大きな穴が開いており、そこに雷撃を受けたときよりも無残に黒焦げになって地面に突っ伏しているスサノオの姿が見えた。


「おっ、ちょうどいい焼き加減になっておるではないか」


 ソラはすでに一仕事終えたかのような満足げな表情を見せる。


「焼き魚かよ……それよりあいつ生きてるのか? 今のに巻き込まれたんじゃただではすまんだろうしなによりトドメのあれはもう、うん、可哀そう」


 殺されそうになっておいて敵の心配をするのもなんだが、流石にあれはな。


 もちろん爆発もとんでもなかったのだが、それよりもあの急所攻撃だ。


 男のウイークポイントにソラの足のつま先がクリティカルヒットしていたから名状しがたき痛みが走っただろう。


 スサノオが受けた痛みを想像するだけで身震いしてしまう。


「手加減もしておいたし大丈夫じゃろう。言うてもそこまででもないじゃろ」


「あの死んだ方がマシとさえ思える痛みを微塵も分かっていないな」


 その後ソラと話しているうちにうっすら残っていた土煙が完全に消えて爆発によってできた大穴を除けばいつもの校庭の姿が戻ってきた。


「さて、用も済んだし帰るかの。早くしないと半額の総菜が売り切れてしまう。六時ぴったりにスーパーで待ち伏せるのがポイントじゃ」


 スサノオがちゃんと真っ黒焦げになっていることを確認すると何事もなかったかのように気持ちを夕飯の献立へと切り替えてソラはスサノオを放置して帰ろうとする。


「スサノオはこのまま置いていってもいいのか?」


「何か問題でもあるかえ? あやつがこの辺をうろついておった理由は分かったしもうやることはないじゃろ。それに早く行かないとライバルたちに先を越されてしまう。あやつら中々やりおるからな、ここからは今日一番集中せねばならん」


 総菜にも負けるのか、スサノオは。

 だがここで帰ると何も解決できていないことになる。


「それは、まあ、頑張れなんだが、やっぱりスサノオと話しておいた方がよくないか? 一方的にボコボコにして帰ったところであいつは俺たちがただ萌えの神様のところに殴り込みに行ったと勘違いしてたからこのまま放置してるともう一度復讐に来るかもしれない」


 そうなればまた無駄な争いを繰り広げることになる。

 互いに意味のない争いをして愚行を演じ続けるのは得策ではない。


「その時はその時でまた痛い目を見せればいいじゃろ。それにおぬし、やつに殺されそうになっておったていうことを分かっておるんか? わざわざ好き好んでそんなやつと話して何になるんじゃ」


「確かにそれはそうなんだが、俺はこれはチャンスだと思う。喧嘩して勝って負けたやつに事情を吐かせるみたいで多少の罪悪感はあるが、こんなことになったのは元はといえば神の世界についての情報を得るためだろ? もしかしたらスサノオから何か情報を引き出せるかもしれない」


 俺はそこで一拍おくと、続きを話した。


「それに萌えの神様の件については乱暴な真似をした俺たちが悪いかもだがそういう理由があるんだから誤解を解くためにも説明はしておいた方がよくないか」


 若干説教臭くなってしまった感は否めない理由を並べるとソラは、


「そんなに話したければおぬし一人でいけばよいじゃろ。それに早くしないと本当に半額総菜が――」


 とか云々かんぬん言い出した。


 正直なところ懐が氷河期を迎えつつあるからこれだけは使いたくはなかったんだが、俺は伝家の宝刀を使うことにした。


 息を大きく吸い、半額のありがたみを寺の坊さんのように説くソラにも聞こえるような大声である単語を言い放つ。


「ファミレス!」


 ソラの目の色が変わる。かかったな。


「……今、なんと?」


「好きなの頼んでいいぞ。もちろん俺のおごりだ。パフェでもハンバーグでもどんとこい!」


「そ、そんなものでわしがつられるとでも――」


「ドリンクバーもつけていい。おまけに食後のデザートも」


「……しょ、しょうがないの~。ふふ、お、おぬしがそこまで言うなら、のう」


 にやけ面を隠すこともなくソラは釣り堀で腹を空かせている魚よりもあっさりと食いものにつられて俺の提案を受け入れスサノオのそばまでは来た。


「おーい。起きとるかー? おーい。……起きとらんな。これじゃあ話すのは無理じゃ。残念じゃが帰るしかあるまい、早くファミレスに直行じゃ!」


 しかしソラが適当に呼びかけてみたものの肝心のスサノオは気を失っているようで目を覚ます気配がなく話し合いにすらならなかったため、起きないと悟ったソラはすたこらさっさと校門に向かって歩き出した。


「ちょ、待てよ。……あー、こうなったのには色々事情があってだな、一言では言えないんだが……まあ、色々あってこうなったんであって決して萌えの神様の家に入りたくて入ったわけではないし俺たちは彼女のファンでもないし今後こういうことがないようにしていくから安心してくれ。それからえーと――」


 一応スサノオに向かって悪意があったわけではないと弁明していると、


「何やっとんじゃ。そやつはしばらくは起きんから話すだけ無駄じゃ。さっさとしんとわしは結界から出るぞ。おぬしひとりではこの結界からは出られないからついてこないならスサノオとそれはそれはディープな熱い夜を過ごすことになるぞ」


 俺史上最悪の夜を更新する夜を過ごすことになる可能性が浮上したため、


「待て待て待て。あー……えーと、じゃあな。蹴られたとこお大事に」


 お世辞にも事情を話したとは言えない一方的な会話をして俺もソラのところへ向かった。

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