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第21話 『ジャッジメント・シン』

 無駄な装飾は一切施されておらず、ただその一太刀ですべてを切り裂かんとする、そんな強い意志を感じる剣。


 そのような代物が、今、確実に、俺を狙って振り下ろされた。


 運よく俺には当たらなかったが、俺と一緒に倒れこんだ自転車のタイヤには当たってしまったようでパンク、というより真っ二つに断ち切られている。


 さらにあまりの切れ味にタイヤを通り越してコンクリの床に地割れのような深い溝ができている。


「ちっ」


 人影は軽く舌打ちをして溝から剣を引き抜き再び俺に静かな、だが大きな殺意を向けてきた。


 ヤバいやばいヤバイやばイヤばい!!!!!


 気づくと俺は愛車を置いておけぼりにして脱兎のごとく猛ダッシュで駆け出していた。


 なんだあいつ! なんだあの剣! 


 今の動きといい力といいやつが人間ではない別の何かであることは確かだ。


 もしあんな身体能力を有する人間がいるとするならおそらくそいつは国民的RPGの中の住人である可能性が極めて高い。


 無我夢中で駐輪場を抜け出した俺はこの異様な空間から抜け出すべく校門を目指したが、あらまあ何ということでしょう。


 監獄の門のように校門は閉ざされてしまっているではありませんか。


 しかもうちの学校の校門はなぜかかなり立派で三メートルは下らないくらいの高さがある。


 よじのぼって飛び越えられなくもないが、おそらく上っている間にやつが来て俺の頭と胴体は涙のお別れをする羽目になりそうだ。


 クソっ! 金かけるところ間違えてんだろ!


 そこに金かけるならトイレの便座にウオシュレット付けやがれ! と、学校に対しての文句を心で叫びながら校庭に向かい裏門を目指す。


 正門は立派だが裏門は確か俺の胸の高さぐらいまでしかなかったはずだからあそこならよじのぼって校外に逃れ助けを呼べるはず。


 振り返るとのこのこ歩いているやつとは少なくとも二十メートルは差が開いているように見える。


 このまま何もなければ逃げ――


「逃げられるとでも?」 


 られることはなく、瞬き一つする間に人影は俺のすぐ背後に現れたので俺はバランスを崩すとともに尻餅をついてしまう。


「ま、待て! 少し話合おう! 話合えばきっと分かるはずだ」


「死体に話すことなどない」


 こちらを死体と断定している感じこいつの頭には俺を生かすという選択肢はないようだな。


 だがもちろん俺もここでああそうですかと殺されるほど諦めがいいわけではない。


 少しでも時間を稼いでこの状況を打開する策を探ることにする。


「ぬ、盗人にもなんとやら、とかいうだろ。誰とも知らないやつに理由も分からず殺されるのは納得がいかない。どうせ殺すのならそれぐらい聞かせてもらいたいね」


「時間稼ぎか? そんなもの聞いて何になる」


「訳も分からず殺されたならきっと未練が残る。で、生霊となった俺は晴れない未練を晴らすために、お前に復讐するまでさまよい続けるだろう。つまりそれを話すってことはお前のためにもなるってわけだ。生霊の恐怖にいつまでも怯えたくはないだろ?」


 そう言うと人影は、ははっと乾いた笑い声を発して、


「いいぜ。冥途の土産に話してやる」


 この間に俺はなんとか退路を確保できないか辺りを見まわす。


「俺の名は、そうだな。裁きを与えし者ジャッジメント・シンとでも名乗っておこうか」


 うわー痛いな~。中二病真っ盛りだな。


 俺も小学生の時はマンガのキャラとか特撮ヒーローになりきって友達同士でそんなこと言ってたけどさすがにジャッジメント・シンはないな。


 すると突然、


 ザン!!!


 と、真横の地面に大きな亀裂が走る。


「何か言ったか?」


 もしかしてあまりの痛さに心の声漏れてた?


「……何も?」


「ちっ。まあ今から殺すやつにキレても仕方ないか。で、理由だがそんなもの言わなくても分かるだろう?」


「はっ? 何言って……」


 否定しようとした俺の脳裏に萌神社をはじめとする不審行為がよぎる。


 こんな化け物に追いかけられる理由なんてそれしか考えられない。


 じゃあこいつはあれらの神社の神様のうちの誰かということか?

 しかしこのような声の神様はいなかったように思う。


 ではそれ以外の第三者?


 どちらにせよ危機的な状況に変わりはない。


 このままでは確実にジ・エンドだ。


 一か八か殴りかかってみるか? こう見えて俺は小学生の頃、喧嘩が強かったんだ。


 思い立ったが吉日だ。


 とりあえず人影目掛けてダッシュ。無我夢中で駆け出した俺だったがそれは徒労に終わる。


「無駄な足掻きってことがまだ分からねえのか?」


 耳元で声がしたと思ったら十トントラックが突っ込んできたかと思うほどの衝撃を背中にを感じるとともに一メートルほど吹っ飛ばされていた。


 目の前にいた人影は瞬時に俺の後ろに現れ蹴りを入れてきたっぽい。

 反則だろ。


 ジンジンと背中が痛む中、追い打ちをかけるように背中をグリグリと踏みつけられる。


 重心を押さえられているから動こうにも動けない。


 動けないでもぞもぞしていると人影がなかなか絶望的なことを話し出した。


「今この学校には俺とお前以外誰もいないから助けなんて来ない。それにここら一帯に結界を張ったからお前の逃げ場はないぞ? いい加減観念したらどうだ」


「そう言われて観念するほど諦めはよくないのでな!」


 腕に力を込めて起き上がろうとするもそうはさせてくれない。


 人影は俺の様子をあざ笑うかのようにこう続けてきた。


「しかしお前が間抜けで助かったよ。教師を操るだけでホイホイ部屋に監禁されてくれたからな、こっちは苦労もクソもなかったぜ」


 担任がおかしかった時点で逃げていれば……自分の不甲斐なさに後悔する。


「担任操るとかそんなの反則だろ」


「反則も何もあるか。お前があんな罪を犯すからこんなことになってんだろうが」


 これはもうどうしようもないぞ。助けも呼べず逃げ場もない。


 完全に詰みじゃないか。

 ここは素直に謝って情に訴えて許してもらう可能性に賭けるか。


「あれは悪かった! それは認めるし謝る! だから殺すのだけは勘弁してくれ!」


「戯言を。お前のような下等生物がそうすること自体許されない。それに謝ってすむなら俺はいらない」


 なんだその中二くさいセリフは! ってそんな場合じゃねえ!

 全然ダメじゃないか!


「安心しろ。お前のお仲間もすぐそっちに送ってやる」


 安心できないフレーズを言って人影はピタリと冷たい刀身を俺の首筋に当てる。


 皮膚を通して殺意というものが体全体に伝わってくる。


 もちろん死にたくはない。


 しかしどうあがこうともこの状況を俺だけで打開することは不可能であるという事実を脳が認識しているのか、全く恐怖と言うものを感じない。


 人間が本当に諦めたときってこんな感情になるんだな。

 人生の最後にある意味重要な学びを得られたな。


 まあそれを今後使ったり誰かに教えたりすることができないのが残念ではあるが。


「じゃあな」


 首筋から刀身が離れ空気が揺らぎ、俺の首を目掛けて剣は振り下ろされ――


「雷ドーン!!!」


 ることは結果的にはなかったものの代わりに女の声とともに雷が落ちてきた。


「「ぎゃあああああ!!!!!」」


 まばゆい光が俺と人影を包み、俺も人影も悲鳴を上げる。


 雷に打たれたからにはさぞかしとんでもないことになるんだろう、と打たれた瞬間は思ったが痛みなどを感じることは全くなかった。


 それに引き換え人影はまる焦げになり体からプスプスと煙が立っている。


 今の雷直撃によって相当のダメージを負ったのか、人影の足がフッと軽くなったのでその隙に束縛から抜け出す。


 何が起きた? なぜ俺だけ無傷なんだ? 状況を飲み込むのに時間がかかる。


 ただ一つ分かるのは俺が間一髪で助かったということだ。


 運よく雷がこんなピンポイントで? そんなラッキーあるわけ……ないよな。


 先ほどの声がした上を見上げる。


「はっはっは! どうじゃ? なかなか痺れるじゃろ!」


 高らかにいつの間にか聞き慣れてしまった声が校庭に響きわたる。

 そう、あいつのおかげである。


 上を見上げると、空にソラがいた。

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