表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/45

第18話 『疑惑の熱愛報道』

 突然、軽やかなで透き通るような声が飛んできた。


 俺たちは三人ともバカみたいにその声がした方向を見て、


「奈良!?」


 本田は驚いた声を上げる。


 声こそ上げなかったものの俺と坂倉も少し驚く。


「おはよう。朝一番からとんでもないニュースが入ったね。クラスのヒロイン照さんの熱愛疑惑、これは大スクープだよ」


 奈良はなぜかニコニコととても楽しそうに話している。


「で、そこのとこどうなんですか福井さん?」


 ずいっと顔を近づけテレビのインタビューのように俺にマイクを向けるしぐさをする。


 別に奈良の顔ならこんな近くでも全然大丈夫だが、あまりに純粋な好奇心が宿る瞳で見つめられたため思わず目を逸らしそうになってしまう。


 しかしここで逸らせば暗黙の了解ということになってしまいそうなのでなんとか踏ん張る。


「そんなわけないだろ。彼女なわけないし、友達と呼んでいいのかすら怪しいくらいだ。昼飯を食べてたのは偶然だ偶然。たまたま日曜に会ってまあ一応クラスメイトなわけだし? 飯でも食うかみたいな軽いノリでソラの方から誘ってくれたんだよ」


「ソラ? 随分仲良さげだね?」


 しまった。ついいつもの癖で。


「……照の方から誘ってくれたんだよ」


「お前さっきと全然話違えじゃねえか」


「それは、なんか変な噂が立つのが嫌だったからだよ。恥ずかしいし」


 とっさに思ってもいないようなことを言う。我ながらナイス。


「武夫は見た目に反して乙女だねー」


「ふん。言ってろ言ってろ」


 すると奈良はマイクを向けるしぐさをやめて、


「うーん。でも今の態度見る感じ嘘ついてる様には見えなかったし……熱愛報道は誤報ということなのかな?」


「当たり前だ。そんなこと断じてない」


 さっきの昔話は完全なる嘘だが昼飯の件に関してはほぼほぼ真実だしな。


 こればかりは嘘はついていないということを奈良は感じ取ってくれたようだ。セーフ。


「いやタケっち――」


 しかし納得いかないのだろうか、本田がしつこく追及しようとしてきたので、


「というよりもなんでそんな俺と照のこと聞きたがるんだ?」


「あっ、深い意味はないよ? ただ私、照さんとあんまり話せてないからもし福井君が仲良かったら間に入ってもらって仲良くなれたらなーって。なんか利用しようとしたみたいでごめんね」


「いや大丈夫だ。こっちも紹介してやれなくて申し訳ない。まだそこまで仲いいわけでもないからな」


「全然全然! 私が話しかければいいだけだし、今度喋ってみるよ。それと女の子っていうのは恋バナが好きだからね。恋愛関連の話になるとつい気になっちゃうの」


 なんとか強引に話題を切り替えることができた。


 本田は不満そうに俺を睨んでいたが無視。


 すると奈良は何かを思い出したかのようにポンと手をたたいて、


「あ、そうだ福井君。ちょっと待ってて」


 そう言って自席に戻りカバンから一冊の本を持ってくる。


「これって……」


「そう! この前図書館で言ってた本だよ。私はもう読んでるしもしよかったらどうぞ!」


 図書館で話していた例の小説である。文庫本でざっと見たかんじ三百ページくらいか。


「いいのか?」


「もちろんだよ!」


 はい、と言って文庫本が差し出されたので受け取る。


「それじゃあお言葉に甘えて。ありがとう」


 チラッと時計を見るともう朝礼開始三分前となっていた。


 俺の視線でそろそろ時間だということを奈良も分かったのだろうか、


「お話できて楽しかったよ。三人とも今日も授業頑張ろうね!」


 まるで台風のように過ぎ去ってしまった。


 残されたのは一冊の文庫本。


 なんかいろいろありすぎて疲れた。


 家に帰ったら少しずつ読んでいくとするか、と本をパラパラとめくってみていると肩にポンと手が置かれて、


「タケっち。照さんの件に加えてその件についても詳しく聞かせてもらおうか」


 本田が何かを訴えるような目で俺を見つめ坂倉も謎の優しい笑顔を浮かべている。


「図書館? いつだ? なんで言わなかったんだ正直に話すんだ」


「いや、それはいろいろあってだな、えーと…………」


「坂倉さん。こいつ確信犯ですよ。即刻ムショぶち込まないとですよ。クラスの二大美少女と楽しい時すごした罪でな!」


「それもしょうがないかもしれないね。武夫、なにか弁論でもある?」


 本田どころか坂倉もなぜか敵に回っている。


 お前そんなキャラじゃないだろ、空気に流されるな!


「……」


「何も言わないってことは認めるってことか?」


「……いやそういうわけじゃ」


「お前ふざけんなよ! 俺がひとりさみしく駅前ぶらついたりしてんのにお前ときたら奈良と図書館できゃっきゃしたり照さんとファミレスで仲睦まじくランチですか!? 俺許せねえよ!!!」


「わしがどうかしたか?」


「ぎゃあああ!!!」


 ここでまさかの本人登場。


 怒りで我を忘れていた本田は無様な悲鳴を教室内に轟かせる。


「何かあるなら話を聞くぞ?」


 ソラはキョトンとした顔で本田に問いかける。おいなんでわざわざ自分から聞かれに行くんだよ、やめろ。


 これを本田はまたとないチャンスだと思ったのか、


「照さん、昨日タケっちとファミレスで飯食ってませんでした? 二人ってそこまで接点ありませんでしたよね? 嫌じゃなければ理由教えていただいてもいいっすか?」


 単刀直入に聞きやがった。


 これに対するソラの答え次第で色々バレてしまうことになるのだが……


「あー……確か……駅前で、会ってのう……あー、それでえーとあんまりこやつと、えー……話したことなかったからなんとなく、誘っただけじゃよ?」


 これ以上ないくらいたどたどしい返答であったがさすが最高神様だ。


 俺も正真正銘のバカではない。


 駅前に行った時点で誰かに見られる可能性があることは織り込み済みのため答えを事前に準備しておいたのだ。


 ソラには正体と俺たちの活動を隠すためと言ったがこいつ駄々こねやがったのでミニ苺パフェを餌にして無理やり覚えさせた。


 そしてソラはそれをしっかりと(?)答えてくれた。


「本当ですか? タケっちに何か言われたとか?」


「ソンナコトナイデスヨ?」


 何か隠していますと言っているような口ぶりだが、ソラはソラの責務を果たしてくれた。


「じゃあ別に何かあるってわけでは……」


「ウン。フクイクントハタダノクラスメイトダヨ」


「マジっすか」


「ガチのマジじゃ」


「そっすか……」


 本人からの言葉にはさすがの本田も引き下がるしかないようだ。


 そしてちょうど鳴ってほしいタイミングで予鈴が鳴りみんなが席に着くのに合わせて本田たちも仕方なさそうに席に戻っていった。


 ソラ、ナイス。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ