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第17話 『徒労のち追及』

「ううう。動けないです~。助けてください~」


 萌えの神様と筋肉の神様は極悪非道な強盗団によって芋虫のように動くことを余儀なくされた。


「おいこの後どうするんだよ。もう部屋は隅々まで調べてしまったしやることないぞ?」


 二人を縛った後で俺たちはもう一度家の中を探してみたものの特に目ぼしいものは何も見つからなかった。


「そうじゃのう。事情聴取でもしとくかの」


 今更感がすごいな。


 というか最初から普通に、誰かいませんか? はーいご用件は? 実はかくかくしかじかで神の世界の帰り方知ってますか? なるほどそれはね……というように丁寧に聞けばいいものをこいつはいきなり部屋に押しかけやがって。


 こんな事態になるのも当然である。


「おい、萌えの神よ。わしらはおぬしらに聞きたいことがあるだけなんじゃ。それを話してくれさえしたらすぐにでもおぬしとそこのゴリゴリマッチョを揃って解放するぞ?」


「それよりも先にこれを解いてください! じゃないとぜっっったいに話しませんから!」


 もう萌えの神様も意地になってしまっている。


「もし解かないとあなたたちにひどいことが起こりますよ? それでもいいんですか!? 覚悟はできてますか!?」


 神様がひどいことをするなんて言ったらそれはとんでもなくヤバいんじゃないか?


 見た目が可愛いからって神様は神様だ。


 粛清の萌えビームを打たれたとしても不思議ではない。


「もし解かないというのなら……私たちにごめんなさいするまで神様コミュニティに入れないようにします! 神様コミュニティに入れないとビンゴ大会や夏の海へのおでかけ、それにとっても楽しいお花見にも呼ばれません! つまりあなたたちはずっと仲間外れです! ふたりぼっちです! あっかんべー!」


 もはや幼稚園児の嫌がらせである。


 俺は別に神様コミュニティに入れなくても困ることはないと思うがソラはどうなんだろうな。


 やっぱりそういうものに入っておかないとさすがのソラでも肩身が狭くなったりするのか?


「よし帰るぞ」


 全く気にしていない様子だった。


「あ! 待ってください、すみません私が意地張ってました! あ、ちょ……せめてこれだけでもはがしていってくださ~い!!! 待って~!!!」


「んー! んんんー!!!」


 萌えの神様の心からの叫びと筋肉の神様の悲痛な訴えを背に俺たちはリビングのドアをバタンと閉めて萌えの神様宅を後にした。


 外に出るとソラが力を込めて扉を閉じる。


 そしてソラは腕を組みながら悩ましそうに、


「今回も収穫ナシ。期待しとったから残念じゃ」


 俺もお前から解放されることを期待してたんだが残念だ。


「いざ入ってみたら本当にただの家だったな」


「まあ終わったものはしょうがないのじゃ、次じゃ次」


 次? まさか他の神社行くとか言わないよな?


 だがそんな俺の祈りも通じることなくソラはさも当然のように、


「何言っとんじゃ。今日明日は一日中市内の神社巡りじゃ。おぬしもしっかりガムテープの準備をしておくんじゃぞ。さて次の神社は……」


 今日一日どころかみんな大好き日曜日までも神社巡りをすると言い出しやがった。


 それってつまり休日返上じゃないか。

 頼むから勘弁してくれ。




 あっという間に月曜日がやってきた。


 萌えの神様宅訪問後も俺たちは市内にある神社を片っ端から訪れて神様への聞き取り調査(という名の押しかけ訪問)を行っていたわけだから、俺の足はまたも自転車を漕ぐたびに筋肉痛で悲鳴を上げている。


 しかもこれだけ動き回ったにも関わらずどの神も神の世界について聞いても知らぬ存ぜぬであったので肝心の情報がほとんど集まらなかったのだ。


 ソラは一応最高神なわけだし眠ってしまう前はそれなりに知名度もあるからなんとかなると思っていたみたいだったが、どうやら今回聞き込みした神様は全員ソラが眠った後に生まれたらしく知名度は皆無。


 しかも全身黒ずくめ女と謎のガムテープ男という怪しい以外の言葉が当てはまらないコンビなもんだったから不審者認定をされて全く心を開いてもらうことができなかった。


 そんなわけで神の世界探しはすごろくのスタートに戻るマスを踏んだ時のように見事に振り出しに戻ってしまった。


 俺のこの二日間は一体何だったのであろうか。




 学校に着いて教室に入るとソラはまだ登校していないようだった。


 いたら文句のひとつやふたつ言ってやろうかと思っていたんだがあとでいいか。


 そんなことを思いながら自席に座り、カバンを机の横に掛けるや否や本田が俺の机目掛けて突っ込んできやがった。


 遅れながらも坂倉も。


「なあタケっち。お前昨日どこにいた?」


 何だいきなり。そんなの決まってるだろ。


「家でゲームしたりマンガ見たりずっとゴロゴロ。いやー、最高の一日だったね」


 当たり前のようにごまかそうと試みるが、


「嘘つけ。お前昨日駅前のファミレスで飯食ってただろ」


 はてさてナンノコトカナ?


「しかもタケっち誰と飯食ってたと思う? 照さんだぞ照さん! どういうことだかきっちり説明してもらおうか、ええ!?」


 怒気を含んだデカい声で喚きたてる本田。


 まさかこいつに見られているとは。


 ソラが駅前のファミレスに行きたいと駄々をこねなければこんなことにはならなかったのにな。


「それは本当に俺だったのか? 他人の空似という可能性もあるだろ」


「いいや、あれは絶対にタケっちと照さんだったね、断言できる。お前は釜揚げしらすの明太パスタとドリンクバー、照さんは牛肉100%デミグラスハンバーグライスセットとミニ苺パフェ食ってたの俺はしっかり見てたからな!」


「バリバリストーカーしてるじゃないか」


「どこがだよ。ただ彼女いない男友達が女の子連れてたから追いかけただけだ。これのどこがストーカーなんだよ、なあ坂倉」


「行動も思考も完全にストーカーだね」


「はあ? 俺は何もおかしいことはしてねえだろ。こんなの常識の範囲内だろ。お前らおかしいんじゃねえか?」


 おかしいのはお前の常識とその頭だな。


「それよりもどうなんだよ。お前と照さん昨日何してんだ? どこ行ってたんだ? あとどんな関係何だよ!?」


 ワーワーうるさいやつだな。しかしソラとの関係がバレるわけにもいかない。


 なので俺は話すことにした。


 小学生の頃、そうお前らと出会う前だ。


 俺は超がつくほどのシャイでな、学校ではいつも一人、帰りも一人。とても友達と呼べるやつなんていなかったんだ。


 だがあれは忘れもしない小六の春。


 俺は六年になっても相変わらず一人で帰っていた。

 

 すると「どうしたの? 一人?」と声を掛けてくれたやつがいたんだ。

 

 それが照ソラだ。


 それから俺たちは毎日一緒に帰ってその後は日が暮れるまで遊んでいた。その時は楽しかったな。何せ生まれて初めての友達だからな、この時が永遠に続けばいいとさえ思っていた。


 しかし運命とは残酷なものだ。ソラの親父の転勤が決まっちまってソラは小学校卒業と同時にここを離れることになったんだ。

 

 そして卒業式の日にまた会うことを誓い合った俺たちは別々の道を歩むことを決めこれまで頑張ってきた。


 で、この間のソラの転校で感動の再開を果たした俺たちは久々に二人で出かけることとなった……という嘘で嘘を隠すような事前に準備しておいた話をな。

 

 本田は偶然その場面を見たというわけだ。


「つまり俺たちは昔ちょっと一緒に遊んでたただの友達ってわけでそれ以上でもそれ以下でもない」


「嘘だな」


「嘘だね」


 オーマイガー。


 せっかく今頑張って作った話なのに。少しは俺の努力を汲んで騙されてくれ。


「なんだそりゃ。ドラマのワンシーンでも引っ張ってきたのか?」


「まあ今の話はそう捉えられてもおかしくないくらいにはおかしかったよね」


「てかそんなウソついてまで昨日のこと隠すなんて相当怪しいな」


 本田がさらなる疑いの目を向けて顔を近づけて来るって近い近い。


 別にお前の顔なんかこんな近くで見たくはないんだが。


「おい、まさかとは思うがかの――」


「彼女だったりして~」

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