第15話 『ギャップ』
本殿の前に着くとソラはなぜか知らないがパーカーのフードを目深にかぶり少し集中した表情になった。
「じゃあ今から空間を開くぞ。準備はいいかの?」
「ああ。いつでも」
そう言うとソラは一度頷き本殿の扉の取っ手を両手で持つと力を込め始める。
「はっ!」
ソラがそう声をあげると手元、というか扉の中から青白い光があふれ出し扉が開いた。
扉の中を覗くと普通の玄関が目に映った。
小さいスニーカーと大きめのスニーカーがあったがそれ以外は綺麗に片付けられている。
なんか普通のマンションっぽい部屋だな。
ソラは特に臆することもなくずかずかと入っていくので俺も続く。
短い廊下の奥にあるドアから光が漏れている。
ソラがそのドアをバン! と力強く開け放つと見た感じ1LDKくらい? の広さの部屋に出た。
手前にダイニングキッチンがありちょうど部屋の真ん中にテーブル一つに椅子が四つありそのうちの一つに誰か座っている。
その人物はこちらに気づきこちらを見た。
「……あ?」
低く図太い声が俺の鼓膜を揺らす。
そのような声はもちろん俺でもソラの声でもない。
その声の持ち主はテーブルに座っているやつ、つまり萌えの神と思われる者である。
まず目を引くのは今にもはち切れそうな大胸筋。
そして山のような血管がなみなみと浮き上がった上腕二頭三頭筋。
加えて背中に羽でも生えているような僧帽筋。
他にも筋肉の仕上がりについては挙げればキリがない。
筋骨隆々を体現したかのような、存在感が半端ではない筋肉おばけがそこにいた。
しかもなぜか黒のブーメランパンツ一丁の姿である。
どう見てもボディビルダーにしか見えない。
俺は一瞬ビビってしまったんだが、ソラは動じることなく萌えの神とメンチを切り合っている。
「おぬしが萌えの神か? 少し話を聞かせてもらうぞ。おとなしくしておれば何もせん」
初手からかなり強気に出るソラ。
やめろ! 萌えの神が暴れ出したらどうするんだ!
「…………」
黙ったままソラと目を合わせ続ける萌えの神。
これはキレてるぞ……筋肉だけじゃなく頭も。
俺のことも一瞥。あまりの眼力に気圧される。
そしてまたソラの方を見て、
「……な」
な?
「ななな何ですか、あなたたち!? だ、誰か助けて! ふ、不審者ぁ!!! きゃあー!!!」
まるで王国の王女様が魔王軍直属の悪の組織に攫われる前のようなセリフを半泣きになりながら叫んだ。
「うるさいぞ! おとなしくしてたら何もせんと言ったじゃろうが! わしらは話が聞きたいだけじゃ!」
「いやいやいや! 痛いのだけは嫌です~!!!」
萌えの神は部屋の奥へと逃げ、窓際の可愛らしい花柄模様のカーテンに包まった。
「こら! 逃げるんじゃない!」
そう言って萌えの神の見た目を特に気にする様子もなく追いかけるソラだが、俺はあえて言うぞ。
どこが萌えの神なんだ? 全くイメージとかけ離れているんだが。
俺のイメージ的にアニメとかの萌えキャラみたいなのが出てくると思っていたんだが。
てか誰だってそう思うだろ。
俺個人の場合だがこのような立派な筋肉に対して全く萌えを感じないんだが一体どうなっているんだ?
「カーテンを離すのじゃ! 何度も言っとるようにおとなしくしてればこちらは何も――」
「怖いです! あっち行ってください! ううううう!」
半泣きどころか今にも泣きだしそうな萌えの神。
筋肉モリモリなのに言うことは全部乙女チックですごい泣き虫だな……あれ?
そこまで考えて俺は一つの結論に辿り着く。
まさかとは思うが……ギャップ『萌え』か!?




