第14話 『侵入! 萌え神社』
ちょうど10時に校門前に行くとソラが校門に寄りかかって待っていた。
服装は黒のパーカーに黒のパンツ、そして黒のスニーカーというオールブラックコーデでソラ自慢の白髪がよく映えている。
もちろんそんな恰好しているから否が応でも目立ち部活にやってきた生徒たちの視線を独り占めにしている。
まあ一概にも格好だけのせいとは言えないんだが。
左手にはホームセンターのロゴが印字されたビニール袋。
根拠はないが何やら嫌な予感がする。
「お、ちゃんと来たか。感心感心」
俺を見つけるや否やソラは近づいてくる。
「何されるか分かったもんじゃないからな。また雷落とされるのなんてごめんだ」
「さすがにそこまではしんぞ。昨日のおぬしの夢を奈良京子に話してやるくらいじゃ」
それは場合によっては雷落とされるよりも被害が大きいんじゃないか?
「それよりこんな時間に呼び出しといて今日はどこに行くつもりなんだよ。 遠出とか嫌だぞ? 半径一キロ以内で頼む」
「安心しろ、そこまで遠くには行かん。とにかくわしについてくればよい。作戦は後で話す」
そういってソラは自然にビニール袋を俺の自転車のカゴの中に入れ歩き出す。
別にいいけど、「入れてもいい?」とかなんか言えよ。
まあそんなこと言ったところで面倒な口論になりそうだし黙ってソラの後についていくことにする。
「ここじゃ」
高校から歩くこと10分ほど。
やってきたのは住宅街の外れにある神社だった。
あの苔だらけのソラの神社と比べてかなり綺麗でそこまで古びてもいない。
中を見てみると社務所やおみくじなんかもあるらしく、今は俺たち以外人はいないがこの手入れのされようだと普段は参拝者がいるのではないだろうか。
「ほら、こっちじゃこっち」
そうソラに促されたため邪魔にならないように入り口付近に自転車を止め神社の境内へ入り参道を歩く。
ソラは神社の拝殿の前で立ち止まり俺の方に振り返った。
「よし。では作戦を説明するぞ。まずここは萌えの神を祭っている神社、通称萌神社じゃ」
何だって? 萌えの神様? そんな神様なんているのか?
「おる。おぬしこの国には八百万の神がいるということを聞いたことはないかの? あれは本当じゃ。何か新しいもの、概念でもいい。それがこの世に生まれ落ちた瞬間、それを司る神がこの世に現れるのじゃ」
「つまり萌えという概念が存在しているから萌えの神様もいると」
それが本当なら例えば耳かきの神様もトイレットペーパーの神様もいるということか。
俺がそういうとソラは頷きながら、
「そういうことじゃ。しかし裏を返せば物体や概念が消えてしまう、つまり人々に完全に忘れ去られてしまったりした瞬間、神もそれと同時に消えてしまうということじゃ」
ものが消えると神も消える。
それを聞いてなんだか悲しい気持ちになるがそれならこいつは絶対に大丈夫だと断言できる。
「それならお前は大丈夫だな。何せ空を司っている偉大で立派で崇高で全人類が崇め奉るべき素晴らしい神様だからな」
「その通りじゃ! よく分かっておるではないか」
明らかに上機嫌になるソラ。
さすが偉大なソラテラス様は扱いやすくて助かる。
「それで? ここがその萌えの神様の神社だということは分かったが肝心の作戦はどうするんだ? 神に聞くとかなんとか言ってたがどこでどうやって会うんだよ?」
「この神社本殿の中に住んでおるからそこに突撃するんじゃ。神はたいてい自分の神社の本殿の中に住んでおるからな。多分今日もいるはずじゃ」
「本殿の中に住んでる? そんなわけないだろ。昔社会見学かなんかでどっかの神社の本殿の中見たことあるけど神様なんて一人もいなかったぞ?」
「おぬしら人間だとそうなってしまうんじゃがわしら神だと違う。神社の本殿の中には二つの空間があって一つは人間が見ている空間、つまりおぬしが見たところじゃな。で、もう一つ空間があってそこは神の力をもってして入れるようになっとるということじゃ」
「つまりゲームとかで戦士は入れないけど魔法使いなら入れる場所があるって感じのことか? 隠しダンジョンみたいな?」
「そのゲームとやらはよく分からんが多分そういうことじゃ」
そんな中二心をくすぐるものがこの世にあったとは。
携帯ゲーム機でRPGやりこんでた小三の俺に言ってやってくれ、さぞ喜ぶだろうから。
「そういうわけで早速作戦決行じゃ」
「いや待て。聞きたいことがもう一つある」
そう言うとソラは「まだ何かあるのかよ?」と聞きたげな鬱陶しそうな表情になる。
「神に聞くというのは分かったがなんで最初に萌えの神様に聞こうと思ったんだ? 別に萌えの神様がダメってわけではないが手っ取り早くなんでも知ってそうな神、全知全能の神かなんかに聞けばいいんじゃないか?」
「もちろん理由はあるぞ。おぬしには言ってなかったが神というのは司っているものの性質をその身に宿していることが多いんじゃ。わしの場合は空を司っているから天気を自由に変えられる、とかじゃな」
その理論で行くと耳かきの神は手が耳かきになったりトイレットペーパーの神は髪がトイレットペーパーだったりするのか?
「で、萌えの神にした理由はじゃな、まずその全知全能の神とやらがどこにいるかわしは知らんし、普通に近所に萌えの神の神社があったから来ただけじゃ」
意外に普通の理由だな。
「あとその神の性質について萌えの神も例外ではないじゃろう。つまり萌えの神は萌えを体に宿している可能性が高いからの、なにかあっても最悪勝てるじゃろうということじゃ」
つまり暴力沙汰とかになっても名前の響き的に弱そうだから何とかなるということか。
訂正。ひっでえ理由。
それで萌えの神様が全日本ボディビル選手権に出てるような強面筋肉神様だったら責任取れんのか?
「なんじゃその表情。何か文句があるのか?」
「……別に」
俺が反論しなかったためソラも特に何かを言うことはなかった。
「よし、じゃあ今度こそ作戦決行といくかの!」
「待て待て。いきなりはまずいだろ」
「はー……また何か問題でもあるか?」
鬱陶しさを通り越し苛立ちを露わにするソラ。
しかし俺にとっては非常に重要な問題だ。
「今は誰もいないとはいえ真昼間だぞ。どこに監視の目があるか分かったもんじゃないのに高校生男女二人組で神社の本殿に侵入しようもんなら何してるんだこんな神聖な場所で、と思われて通報されるかもしれんだろ。ただでさえ宿題の件で担任にしごかれてんだぞ。これ以上はごめんだ」
「それなら心配無用じゃ。さっき神社に入る時に他の人間にわしらの存在が認知されないように細工をしておいた。じゃから何してもバレんぞ」
こいつ、さも当たり前かのように風呂をのぞきたい男子高校生が喉から手が出るほど欲しい能力ランキングTOP3には入るであろう能力をあっさりと使いやがるな。
するとソラは思い出したかのように例のホームセンターのロゴ入りビニール袋を俺に渡してくる。
「ああ、そうじゃ。作戦決行前にこれを渡しておくのじゃ」
中身は大量のガムテープ。
「なんだよこれ」
「何ってガムテープじゃろ?」
「それは分かるがなんでこんなもの俺に渡すんだ? 今日使うタイミングなんかないだろ」
「それはまあ、いざという時のために、な。とにかく持っておくのじゃ!」
いつもの歯切れがないソラ。やはり嫌な予感しかしない。
「なあ、そのいざっていう時って――」
「よし、じゃあ行くのじゃ!」
俺が追及しようとしているのを感じ取ったのか、強引に話を切り上げ本殿に向かって歩き出してしまい問い詰めることができなかった。
まあどうせ問い詰めてもはぐらかされるからいいか。




