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八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、15

 マレの機体が空中高く跳ね上がるのを見て、柊陸曹は素直に「すげえ!」と感嘆した。そして同時に、あれが本来であるなら自分が搭乗しているアタックに追装備されるはずだったのか、と考えて感嘆よりも深く落胆もした。

 ノーシェイプmkⅡと言ったか――彼女の機体は二年前に初めて出会ったときから比べて格段にその性能が上がっていた。それだけでもコンプレックスになり得るのに、このうえカネザキの後付けアーマーシステムまで向こうに別添されているとか――。柊は今更ながら自衛隊の上層部の無能を嘆いた。

 「――ちッ!まだ機体の性能をコントロールできていないのか!?」

 マレが北へ大きく浮揚したことで、現状、彼女がレーダー登録した敵機体『ヤック』と差しで向かい合う格好となった柊。武装を改めてチェックするが、手にしたマシンガンの残弾は残り少なくなっており、弾倉がフルな射撃武装はハンドガン二丁だけだ。

 「こんなんで戦えってのが土台無理なんだって!」吠える。

 これまでだって自機だけで戦えてきたわけではない。中距離の久能、長距離の田辺がいたからどうにか戦いの体裁をとれていただけに過ぎない。

 「自分の力が足りないのくらい、承知の上なんだよ」誰に向かっての言葉なのか、吐いた本人でさえよくはわかっていない。


 柊機がマシンガンを腰に戻してハンドガンを構える。余った左手には衝撃緩衝を目的とした簡易盾を展開させた。

 しかし、準備万端いざ敢行といったタイミングで、ヤックが柊機に対してふいっと背を向けた。それは今の柊を激昂させるのには十分事足りる行為だった。


 「――俺じゃ相手にならないって――そういう意味だと取っていいんだろうな!?」

 敵機(ヤック)が自分に対して敵前逃亡を画策した――なんてことはない。そう柊は思った。もちろん力関係を単純に考えればそう相手に思われても仕方のない行動と立ち位置だっただろう。


 だからこそ、不用意に背を向けたヤックに対して軽装備で接近戦を選択した柊は、迂闊だった。

 背後から奇襲をかけたつもりのアタックトルーパーがハンドガンの引き金を絞る寸前に。

 すでに振り返って正面から刀を振り下ろすヤックが、柊の眼前にあった。

 刀はこのまま振り下ろせば正面からまっすぐにアタックトルーパーを真っ二つにするだろう。

 「――罠か!」

 それはもう行動するには遅すぎるタイミングだった。

 『――己を恨め』

 ヤックの搭乗者だろうか、柊が聞いたのは日本語のように思えた。

 ――死ねるかよ。やっとマレさんに逢えたんだ。顔も見ないままジ・エンドなんて冗談じゃない。


 必死にレバーを捻る。


 それが柊に出来た最後の選択だった。

 頑強なはずのコクピットをめきめきと刀が破ってきて、摩擦で熱くなった刀身がちょうど柊陸曹の身体の中心線をなぞるようにラインを引く。

 熱風がコクピットの内部に対流を起こし、短髪の柊陸曹の髪をも撫で上げる。ぴったりとして身動きのとれないコクピットはこうなると完全な棺桶だ。


 「――うまくできてるんだな」


 柊は最後は笑おうと思った。しかし顔は、どうしてもひきつってしまう。


 「こっちは――うまくいかねえ」マレの顔が朧げに浮かぶ。二年前の顔だ。


 もはや苦笑いしか出ない。

 

 大きな爆裂音がして、アタックトルーパーのコクピットが激しく揺れた。

人生でいろいろと自分が踏み込んで「あ、失敗したな」と思うことがあって、その都度それを改善しようと努めるんですが、忘れた頃に「キュッ」と顔を出すこっとってないでしょうか?結局そんなことが重なって人生の失敗談が山積していくのですけれど、これって止まることあります?もう前世の因果なんじゃないのって(避けられない宿命)考えてしまうのは私だけでしょうや?w

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