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八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、14

 ノーシェイプmkⅡのコンソールパネルに追加武装のゲージが灯る。

 一気にパネルが賑やかになり、それをマレが慣れた手つきでセッティングしなおす。


 「武装が増えるのは歓迎だけど、画面が見づらくなるのってどうなのよ」


 毒づく言葉に反して口調は実に愉しげだ。


 「――表示を距離対応武装優先に五つ。カウンターウエポンとあたしの得意武装をこっちにセットして――」あれよの間にパネルが整頓されていく。

 「スラスターゲージチャージ良し。まさか元気なのが一回こっきりっていうんじゃないでしょうね」

 マレの見やすい位置にスラスターゲージを配したのはダオだ。口が悪く、日頃から蔑視発言連発してくることを除けばダオは優秀なメカニックでありノーシェイプ最大の理解者だ。


 スラスターパワーゲージがノーシェイプmkⅡの軽く倍の数値を示す。マレはこれまでの訓練において実装武器の試射も実機運用もしてきていない。シミュレーションで動きと武器の特性は把握してはいるが、それが実戦で実際に役に立つかどうかと言われれば疑問符が浮かぶ。


 「マレさん――。()()って実際どんな感じなんです?」自分が実装できなかった武装に柊陸曹は興味津々の様子だ。

 マレが、短く答える。

 「――知らないわよ。あたしだって実戦で使うの今日が初だっての」

 「噓でしょ!?」また柊が頓狂な声を上げた。マレは目を細め、嘆息した。もう正直柊の、その「嘘でしょ」に類する言葉にはうんざりしていた。

 『もう三度めでしょ?実家の鶏だってそんなに頻繁に喚いたりしないわ』

 「――え?なんです?よく聞き取れなくて」

 それはそうだ。あえてタイ語で悪態をついたのだ。

 先刻はじき飛ばした刀を、ヤックが拾って構えるのが煙ごしに垣間見えた。悠然と構え、こちらの準備が万全に整うのを待っているようにゆっくりとしている。


 「技量が上だと思って舐めてたら、『蛇使いが蛇のために死ぬことになる』わよ!」

 

 フットペダルを踏みこむ。今まで感じたことのない重みがペダルにあって、押し込むのにいささかの難儀を覚えた。わずかな踏み込みであったのに、ノーシェイプは思いきり前進していた。ヤックとの間合いが一瞬でなくなる。

 「――冗談ッ!?」

 中近距離のガン装備をセットしていた武装のパネルが近距離メインにシフトする。しかし装備を持ち換える余裕はない。機体はマレの意向とは反する形でガトリングを斉射しながらヤックに突撃するという、なんとも無策で無様な様相を晒してしまっていた。

 見かねた柊のアタックトルーパーが銃を構えて射線を取る動きを見せる。


 「――だから、タイマンするって――言ってんでしょ!」

 

 マレの叱咤に「しかし」と短く呻く柊の声。

 それにしてもとんでもないスピードだ。日頃からマスドライバー射出という超スピードに慣れていたからどうにか制御できたが、こんなビル街で本来出して良い速度ではない。古いビルであるなら、巻き起こす風圧で横を通過しただけでも倒壊させてしまうかもしれない。かすりでもしたら間違いなく削り取る自信がある。

 場所を変えなきゃ――。

 周辺の地図を手繰り、機体を浮かせて北上する。この先に荒川がある。川沿いであれば公園のひとつくらいはあるだろう。川の中での決戦だって悪くない。とにかく街を破壊することは避けたい。

 空中に向けてブーストをかけると、ノーシェイプは勢いよく空中へと飛びあがる。視界に折よく河川沿いの野球場が表示された。

 あそこまで誘導できれば損害は少なくて済む。

 「マレさん!」柊の通信だ。しかしやけに遠い。


 ここでマレは肝心なことを忘れていたことに気づく。


 自分だけがこちらに来たとて意味がない。柊陸曹のアタックトルーパーとヤックを街中に置き去りにしたままだ。


 

 

本日、プライムビデオで「12人の優しい日本人」というものを見ました。まあ古い映画なのですがテンポよく二転三転する展開に思わず釘づけにされてしまいました。すごいな、と思ったのは総勢15人くらいしか出ない映画の登場人物の名前が、最後までたった一人しかあきらかにならなかったことです。まあつまり残り14人程度は(映画だから良いんですが)登場人物として名前がわからないまま終焉してしまうという。これを仮に小説というジャンルで起こすとすれば、映像なしの状態でいかに書ききるかということになるんですが――。いやあ、私には無理だなと、思いましたねw

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