八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、12
マレの命名したコード名『ヤック』は、ノーシェイプとの接近戦を不利と見るや、大きく後ろへと跳躍した。そのしなやかな動きはこれまで見てきたどのロボットとも異なっていて、機動性には自信のあるノーシェイプの反応速度を、ある意味では軽々と超えていた。
「ええい。ロボットのくせにメカメカしくない奴!」マレが叫んだのは、負け惜しみが半分入ってのものだ。
ヤックに広範囲に動かれることは正直こちら側にとって好ましくなかった。髪の毛のようなものから出ている青白い煙の正体が未だ解析されていなかったし、鞭のようにしなる長い手足を存分に振るう間合いではどうしたって条件がこっちに不利だ。それに、さっきのような不意打ちをヤックが二度受けてくれるとは到底思えない。
あれを見た後だと、かつて人間らしく綺麗に動くなと感心したトルーパーズの動きさえぎこちなく思えてくる。
そもそもあれはどこ所属のなんなんだ?
敵なのは間違いないのだろうが、さっきも感じた通りあれは地球産のロボットではないのか?しかしああも高機動の、まるで人間をそのまま巨大化させたみたいなロボットの開発の話などはこれまで聞いた事がない。仮にデマであっても、なにかしらのニュースソースがあれば、うちの所長含めミンケイの神宮寺やカネザキ重工がそのまま黙っているはずがない。
わからないことが重なって、しかも戦闘中であったから、マレのイライラはピークに達しつつあった。
「中に人がいるんなら、ぶちのめして直接訊いてやるよ」などと完全に悪役の台詞を口にする。
ブースターをめいっぱいふかして距離を詰める。思った通り直進機能ではノーシェイプに分がある。ヤックが回避行動をとるために膝を落とすのが見えたが、すでにノーシェイプは攻撃できる射程距離に相手を捉えていた。
ボディーからマニュピレーターを伸ばす。鋭く尖った三つの爪がヤックをかすめた。すかさず横に薙ぐが、それをヤックがいなす。
丸いボディーを横回転させる。ノーシェイプの尻尾がヤックを直上から襲う。
しかしヤックは体を伸ばして両の腕を交差させることで、尻尾アタックを力が完全に乗る前に受けきった。そのまま膝を打ち当ててノーシェイプを吹き飛ばす。
「――にゃろう!」
「――マレさん、距離!距離をとって!」
頭に血の上ったマレが柊の射線を阻害していた。声は耳に入っていたが、突進力と回転力で上回るノーシェイプをこの間合いから外す気は毛頭なかった。
「こっちのが速い――のに!」攻撃のほとんどを巧みに受け躱される。
タングステンコーティングされた屈強な爪が空を切り、本体から伸ばした細腕マニュピレーターの付け根を手刀で叩き折られた時、初めてマレに理性が戻った。
悔しいけど、相手の方が技量であたしより上だ――!
マレが弾けるように距離をとった。
それを見て柊陸曹が新たな援護射線を模索する。
柊にマレから通信が入った。
「悪いけど、ちょっとタイマン張らせてもらっていいかなぁ――」
声は静かで、とても落ち着いているような感じだったが、その端々に『手を出すな』といった警告めいた気配があった。
しかし――言いかけて柊はやめた。
ノーシェイプの後ろにくっついていた丸い球ふたつがパージされ、うち一つが割れて、中から折りたたまれた金属パーツが姿を現わす。
「あたしの技量が足りないのはわかった。――でも、イコール、ノーシェイプが負けてるわけじゃないってこと、教えたげる」
柊が黙したのは、一番槍に対して今、口を出すことが野暮であると感じたからということもあったが、マレが――いや、ノーシェイプからただならぬ気配を感じ取ったからだ。
某プライムビデオですごく昭和めいたロボットアニメを見ると、色々と突っ込みどころがあることに気づかされます。自身でこういったものを書いているせいもあってか、実際何十メートルもあるロボットがこのあたりで戦ったらどうなるだろうと想像すると、昭和のアニメのロボットたちの傍若無人にひたすら舌を巻かされます。実際、危ないと思いますw




