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ノーシェイプ、あるいはシェイプレスの事情、の2

 「すでに耳に入っているかと思うがーー」

 日本流体力学研究所管制官、道成正(みちなりただし)は、まったく抑揚の無い口調でマレとダオの二人にそう切り出した。

 内容はまぁ、先刻研究所所属の最新鋭機ノーシェイププロト1の調整中に話題のあった、世田谷のミンケイバー出現についてだった。ダオはミンケイバーによって世田谷が全壊したように言っていたが、実際は一部が甚大な損壊にあったくらいで、特に死傷者もなかったとのことだった。

 ふうん、とマレは息を吐く。


 ダオはいつも話する時、なにかしら()()んだよな。悪いクセだ。


 まあ、私にゃ関係ない話だが。私は、とにかく金が稼げればそれでいい。ノーシェイプに乗ってるのだって、別に好きでやってるわけじゃない。これまでのどの仕事より格段に実入りがいいからやっている、それだけだ。ダオがしている仕事の方がギャラが良いというのなら、いつだって代わる覚悟もある。

 道成の話は続く。

 「奴ら(ミンケイバー)がどうあれ、今回手柄を奪われてしまったことに変わりはない。これよりは各自常に緊急発進が可能な体制で待機しておいてくれ」

 「はいはーい。ただし()、それっていつまで?まさか、これからずっとってことはないんでしょうね?」マレが挙手した手をゆっくりと左右に振りながら言った。

 「今回の一件で、我々は奴らの後塵を拝した結果となった。君達も知っての通り、近年の国家予算の防衛費は宇宙人侵略対策費に多く割り振られている。都市の被害額を差っ引いたとしても、今回民間警備会社「ミンケイ」に支払われるだろう金額は五千万円を下るまい」

 「!五千万ッ!」マレの両眼の瞳孔が大きく開く。

 「そうだ。少なくとも、だ。実際はもっと多額の金が動くと見て間違いない。待機についてだが、さしあたり次の出動まで要警戒体制を取っておきたい。宇宙人が動く前兆が確認されたら、しばらくの間研究所に詰めてもらうことになる。それまでは機体整備を怠りなくしておいてくれればいい。勿論、その間に空いた時間についての行動は自由だ」

 「既に機体調整は完了しています。後は機体コーティング処理後マスドライバーにセットするだけです」と、ダオ。

 「コーティング処理は現段階でどれ程の時間がかかる?」

 「おおよそ一時間かと」

 それでは遅いのだ、と道成。

 「ミンケイバーは現場到達まで五分と聞いている」

 「不可能です。事前にノーシェイプにコーティングを済ませておきでもしなければ」

 「そのための待機であり、要警戒体制であると理解してくれ」道成の言葉は淡々としていた。反対にダオは理解した。

 

 結局ワリを食うのはあたしだけじゃないか!、と。


 「なんなら私が代わろうか?」

 「マレはコーティング作業できないでしょう?」

 「そこはそれ、こう、ボタンでポチポチっと」

 ダオは深いため息を隠すことなく吐いてみせた。

 「上げ膳据え膳で機械に乗ってればいいだけのアンタとは違うの!その時の場所や気候に合わせたコーティングをしなきゃ、ノーシェイプなんてものの十分で丸裸にされるんだからね。そんな簡単に言わないでよ」

 「はぁ!?人が親切で言ってりゃ随分と言うじゃねえか!じゃあテメェがノーシェイプん乗るか!あぁ!?」

 「オトコが出てんだよ、このカマ野郎が!」

 ーーよさないか!道成が場を一喝した。

 「おそらくこうなるだろうと踏んで、人員を補強することにした。入ってきたまえ」

 管制官室に入ってきたのは(おそらくまだ)二十歳にはなっていないだろう、顔にあどけなさの残る少女だった。

 あ、あの、小笠原ミルです。よろしくお願いします。

 と、その少女は軽く頭を下げた。

 恐怖で縮こまった体を精一杯奮い立たせてこちらを見る彼女の大きな目から繰り出された上目遣いが、一瞬でその場の緊張感を瓦解させた。

 それは小動物だけが醸せるなんとも愛くるしい雰囲気だった。怒りの感情がふつっと切れていくのがわかった。

 「あ、よ、よろしく」マレもダオも、どちらとも無しに小さく頭を下げていた。

 

 

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