八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、6
ノーシェイプのレーダーに反応が出た。マレの体内でアドレナリンがふつ、と沸き立つ。
レーダーは敵機ではなく自衛隊のマシンであることを表示していた。
――なんだ。
気勢が一気に削がれる。「がっかり」が音に出ていそうだ。
ゆっくりとホバリングを解き、赤羽は東本通りの路上に丁寧に着地する。マレはノーシェイプのモニターにそっと手を置いて「だけど、あんたすごいよ」と微笑んだ。
攻撃力、機動力、反応速度。どれをとっても文句のつけようがなかった。
まあ、とりわけその外観は、おいといて――ということにはなるが、それだって使いまわしの良さを考えれば些細な問題に思える。
「――うん、うん!」
感慨にふける。今回は本来の使う機会に恵まれなかったが、本体の後ろに装備した追加武装を用いれば戦闘のバリエーションは格段に増えてくる。
「――マレ先輩、もしかして酔ってます?」心配そうな声が届く。小笠原ミルの姿がモニター投影されている。
「――いや?mkⅡがあんまりいい子なもんだから、もうちょっと戦闘が続けばいいなって思ってたとこよ」
「物騒なこと言わないでください。今回は巨大獣が出ることもないでしょうから、このまま帰投してください」小笠原ミルがどうしてそう断じたのか、少し気にならないわけではなかったが、今はまだこの感動の余韻に浸りたいとマレは心底思っていた。
帰りたくないな――などと、思春期の子供めいたことさえ考えてしまっている。
刹那――痛烈なビープ音がして、ノーシェイプに外通信からの緊急アラートが届く。
甘美な余韻を打ち消したのはまたも小笠原ミルだった。
「――マレさん!前言撤回です。戦闘準備してください。レーダーに反応が――!」
話の途中で画像が乱れ、通信がジャミング特有の乱れ方をして遮られた。
「――え?ちょっと、ミル!返事して!ミル!?」
ノーシェイプのレーダー反応に変化はない。変わらず自衛隊の三機のシグナルが明滅しているだけだ。
確かこの近くにいたのは自衛隊機だったはずでしょ――!?
普通に考えてこの国の公僕がそんな暴挙に出るとは思えなかった。彼らは仇敵を制圧するのにしたって、至って紳士的だ。なんの前予告もなしで戦闘状態に入ってくるとは到底考えにくい。
「もしそうだとするんなら、日本人がまた『リメンバー・パールハーバー』したってことになるけど――!」
緊張状態のさなか、機影が見えた。それはかつて見たことのある自衛隊機のそれだ。
たしか『トルーパーズ』。
あの目つきの悪い角刈りの坊やのマシンだ。
甘いノスタルジーにスパイスが香る。
マレは懐旧の念をじぃっと眠らせて、照準をアタックトルーパーに合わせた。
その両眼に油断はない。
本日、映画を一本見てまいりました(だから投稿が遅れたのだと言い訳をしているわけではないのですがw)。学園物で決してお金のかかっていない作品だったのですが、130分の間にこれでもかってほどの情報を詰め込んでくる詰め込んでくる。ぷしゅーってなりましたね。少なくとも私が高校生だったころはこんなに物は考えませんでしたw でも人ってこちらの目で見えていることが必ずしも正しいわけではないんだよなって思わされる映画でした。まあ、単純な私には書けないなシナリオだな、と。泣きたいw




