日本2062 有限会社ミンケイの場合の、16
『太陽光変換ビーム、エネルギー充電完了』アナウンスが流れたのは、鳳が感極まったまさにその直後だった。
「――大地、左京!お前らほんとよく頑張った!」鳳が張りのある声をあげる。
灼熱と化したコンソールパネルに頭を突っ伏しながら大地が無言で親指を立てるのが見えた。
左京が「四時までには家に帰して!」と凄んだ声も届いた。
鳳搭乗の頭部、ケイバ―ジェットのコンソール画面が、この機械壊れたんじゃないの?と疑うほどの明滅を繰り返す。こんな経験はパチンコ屋で自分の両脇が同時に大当たりを出した時以来だ。
それほどにド派手な演出だ。さっき押下した赤いボタンが今度は『今こそ押すのだ』と言わんばかりに激しい点滅をする。
ここまでけっこうな時間が経過したように思えたが、実際のところ太陽光変換ビーム充電完了までの時間はそうかかってはいない。まるで走馬灯を見るような――通常では考えにくい緩やかな時間経過が、合体ロボットの搭乗者たちにはあるのかもしれない。
鰐をかたどった巨大獣は確かに光に包まれて太陽光変換ビームが充電され始めた際、その異常事態に敏感に反応し、確かに数秒のたたらを踏んでいた。
しかし、そう。時間にして不思議なことに、十秒とは経っていなかったのだ。
あれほど引っ張っておきながらわずかに数秒。実質三分しか地球に滞在を許されないはずの某光の巨人がテレビの中にあっては平気で十分いるくらいの驚異的時間差。
「私は今猛烈に感動している!」神宮司時宗は町田市のミンケイ本部でこの様子を見ながら号泣していた。
そう。合体の最中や必殺技に目覚める瞬間とか、余程のイベントでもなければその領域をそこなうことは合体ロボットものの世界観ではありえない。
あってはならないものなのだ――!
「――取り込まれたな――この世界に――!」鳳が叫んだ。
当然と言って差し支えはないだろう。鰐の巨大獣はこの世界観に紛れ込んだストレンジャーに、この瞬間なりさがってしまっていた。抵抗しようにもできない不可侵の感覚に、時間と感覚を文字通り止められてしまっていた。
それは今思えば、これまで幾度も地球に――日本に降り立とうとしてきた全ての悪意ある存在にことごとく適応してきた事象のひとつであった。
決定的な言葉を放った鳳でさえ、言葉の意味する事柄について、その真なる自覚はなかった。つい、口に出た、言葉――だった。
鳳の指は、迷うことなく赤いボタンに吸い込まれていく。その行動にはいささかの躊躇もない。
ボタンを押した瞬間、ミンケイバーの太陽光変換ビームは、発射された。
一瞬、世界の音を完全に消し去ったのち、凄まじい轟音とともに鰐型巨大獣を正面に捉えた。光の斜線がはじめ足元の大地を削り取り、伸びた射線が延長線上にあった鰐と、地面と、海と、空を瞬く間もなく斬って裂いた。
ビーム光が完全に視界から消えたあとに残されたのは、ぐずぐずに泡立った地面が示すまっすぐ伸びた道だけだ。
そして地球の輪郭をいくばくか削りながら、その射線上のすべてを跡形もなく――消し去っていた。
その場に居合わせた誰もが言葉を失っていた。
これは、人が持ってはいけない力だと、少なくとも誰かは思わなければならない惨状が、眼前にはあった。
手に負えない事柄について、最近考えることが多すぎです。こうして一方通行なのも少し泣けてくることが多いこの頃です。「こうしたらいいんじゃあないの?」といったご意見お待ちしております(泣)




