日本2062 有限会社ミンケイの場合の、12
明日からまた少しづつ寒くなるらしいですね。外出用のコートもどれにしていいものか悩みます。夜に少しお酒を嗜もうと思ったら少し厚手の方が明日はいいのかもしれません。皆様方も天気予報を見て気をつけてお出かけくださいませ
中距離戦に突入し、必殺を誇る超電撃メンコの攻撃をも凌がれた我らがミンケイバー。
鳳は、右京に続いて大地までも自分勝手に攻撃したことに対して強い憤りを覚えていた。
ミンケイバーは七機構成の合体ロボットである。基本的に操縦のメインを鳳の頭部が管理してはいるが、実は各々の搭乗場所によって独自判断で操作することも出来た。
かの神宮司時宗博士はこの画期的なシステムを『ピンチの時にわかる起死回生の仲間システム』と呼称して設計の基本軸にしていた。
当然のことながら元ネタはすべて昭和の合体ロボットアニメからのものだ。
アニメのように結末が最初から作り手に委ねられている――所謂フィクションであったなら、こんな冗談のようなシステムでも結果的に話としてまとめられるのだから何の問題もないだろう。
しかし問題はそれを現実に持ち込んでしまっていることだ。実際のところそれぞれの搭乗者に勝手気ままに動かれたのでは正直たまったものではない。
なにせこちとら歩く大量破壊兵器なのだ。
「そんな困難さえも乗り越えて、強くなれ若人よ!」と、ごり押しでこのふざけたシステムを押し付けられた時、鳳は職を変えることについて真剣に悩むべきであったのだ。リーダー手当てという実に割の合わない雀の涙を掬って飲み込みさえしなければ今これほどまでに心を削って苦渋を舐めることはなかったはずだ。
もちろんこのシステムも欠陥ばかりではない。絶えず振動にさらされる鋼鉄のコクピットの中で判断が遅れたり気分が悪くなったりすることも多い。反射神経にも個人差があり、悔しい話だが鳳よりも大地の方が反応速度が良かったりする。
助けられることもままあるシステム。
だからこそ性質が悪い。
良いほうに働けば薬だが、悪いほうに働けば劇物級の毒物だ。
しかも責任はすべてリーダー手当に縛られている鳳に非難の矛先が向くのだ。
――落ちつけ。落ちつけ、大鳥鴻。まずはやんわりと主導権をこちらに委ねるようメンバーに伝えるんだ。
話せばわかる。人間だもの。
鳳は自分自身を落ち着かせるため、自身の封じられた本名を噛みしめるように唱えた。この間かかりつけ医に「あんたまだ若いのに血圧の数値が高いね。圧だけ言ったら五十過ぎの中間管理職並みだよ?」とさり気に釘を刺されたことを思い出す。
「いやあ、職場でイライラすることが多くてね」
「それは良くない。良くないよ。いいかい?イラっときたらまず落ち着いて六秒数えるんだ。そうするとあら不思議。怒りの感情がスッと引いていくんだ。物は試しだと思って今度やってみな」
今こそ医者の言葉を借りる時だ。
鳳皇は目を閉じ、ゆっくりと六秒数えた。
数え終わり、目を開くと――そこには現実が待ち構えていた。
いっこうに動く気配のないリーダーを見かねて、右京と左京は交互に足を動かして猛ダッシュを敢行し、思い出の観覧車を破壊された太平洋が怒り狂って両足側面に搭載されたミサイルランチャーを乱発していた。大地はといえば、いつのまにか両手をドリルに変えて鰐の巨大獣に狙いをつけている。
たった六秒の間に事態は突貫の様相へと変じていた。
葛西臨海公園のあちこちで超電撃メンコの余波とミサイルの爆発で生じた火災が起こっていた。
火柱がめらめらとゆらめいて、黒く濁った煙が絡みあって空に昇っていく。地面は踏み荒らされてところどころが埋め立てはもはや無用と思えるほどに陥没していた。
さながら周囲は地獄絵図だ。
「何で六秒の間にこんなことになってんだよぉお!」
鳳の悲鳴は、爆発と、大地の「ドリぃィィィるッ!手刀ぅゥぅぅぅッ!」という掛け声にあっという間にかき消されてしまっていた。
月額三千六百五十円のリーダー手当では、到底割に合わない。
鳳は、自分の胃がキュッと縮むのを感じた。




