日本2062 有限会社ミンケイの場合の、11
すでに使われてはおらず躯体には無数の種類のツタが茂っていたが、葛西臨海公園の大観覧車といえば東京のランドマークの一端を長きにわたって担ってきたシンボルだった。
それが今目の前で崩れ落ちていく。
ツタに覆われていたためすぐにガラガラ崩れていくわけではなかったから、それがさらなる郷愁をさそった。ゆっくりと金属がひしゃげていく音は断末魔というより恨み節のように耳に残る悲しげなものだった。
太平洋がやりきれない、といった表情で唇を震わせていた。なにかしら彼の心に訴えかけるものでもあったのだろう。低い呻き声のあと「だから言ったんだ。外してくれるなよ、と!」吠えた。
どこか皮肉屋の一面が強い太平洋がこれほど感情をあらわにするのは珍しいことだった。
風林火山を振りぬいた鳳も、結果として元凶となってしまった右京も、どうしていいかわからず、ただただ沈黙をするのみだ。
こういった場面でいつも間に入って仲裁する太平洋は、今日は当事者だ。
うまく割って入る隙間を模索していた月影アラタも、どうにもタイミングに割り込めずにいた。
しかしこうしている間にも時間は流れる。
風林火山のひと振りに脅威を感じたのか、ややこちらと距離をとっていた鰐型巨大獣がすでに体勢を立て直してこちらの様子をうかがっていた。
「――切り替えろ!」鳳が檄を飛ばした。絞り出した声にいつもの覇気はない。
「この距離なら超電撃メンコだ!」大地駆の主導で右手から光り輝く電撃のエネルギー体が空中で長方形に模られていく。ミンケイバーは右手の人差し指と中指でそれを素早く挟み、水平に投げつけた。宙を滑る光のかたまりは鋭く飛んで、あやまたず巨大獣の首から背中にかけて命中した。
「見よ!これぞ超電撃メンコ水平発射だ!」大地駆が得意気に鼻を鳴らす。
しかし我らがミンケイバーにそんな結果オーライなオチは存在しない。
巨大獣に触れた超電撃メンコのエネルギーは金色の蛇がのたうつがごとく波状に広がると、たちまち巨大獣だけではなくその周囲一帯までをも焼き尽くしていく。
電撃は、それに触れた鰐の表皮を削るように焼くだけでは飽き足らず、近くに自生していた広葉樹や丈の伸びた芝生、東屋までも巻き込んで盛大に爆ぜた。
「おいおい!加減――したんだよな?」鳳が太平洋の機嫌を窺うように小さく声をかけたが、大地は平然と「いや、それもう俺の仕事じゃないし。武器の加減調節は基本ケイバ―ボディーかあんただろ?」
モニターを通して、アラタに鳳から無言の確認が来たがアラタに武器威力を調整した様子はない。首を何度も横に振っている。実際、アラタのコクピットにある武器のダメージ調整フェーダーは『緊急時以外常にMAX』という博士直筆の張り紙がされていたし、緊急時ボタンを押下しない限り威力の調整は出来ない仕様に設定されている。
とどのつまり神宮司博士という男は最初からミンケイバーの使用武器の威力を抑えるつもりなどさらさらないのだ。
「――馬鹿野郎が!」誰に向けたものだったのか、鳳はそう短く吐き捨ててのち、歯軋りをした。
しかし、辺り一面が消し炭に変わるほどの大被害を周囲にあたえたにもかかわらず鰐の巨大獣はいまだ健在で、真っ黒な双眸には怒りの表情としかとれないどす黒い光を浮かべている。まだまだ余力があるのは傍目にも明らかだ。
ごおぉぉぉおおおおぉおおおおぉぉ――!と、鰐が再び天をも震撼させる咆哮を放つ。
「こりゃあ、六時集合は無理かぁ?」大地駆は苦笑いしながらそんな独り言を噛みしめた。
コクピットの時計はすでに午後三時を回っている。
皆様いかがお過ごしでしょうか。恐らく私のようにこうやって書いておられる方々の中にも「この伏線いつ回収しよう」でありますとか「げ!こんな設定忘れてた」などと、おおよそやらかしてはいけない事象に陥っている方は多いのじゃないでしょうか。ええと、そういう時どうしたらいいかお知恵をお借りできたなら幸いです。もちろん読んでくださっている方々にも「お前この設定忘れてるよ」などの御教示?いただけましたらなおなお幸いです。どうぞよしなにお願い申し上げます




