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日本2062 有限会社ミンケイの場合の、9

 空中で見事合身したわれらがミンケイバーは、颯爽と東京湾と荒川の境をまたぎ越し、葛西臨海公園へと着地した。

 「ねえ、ここって東京じゃないんだよね」旧江戸川にかかる湾岸道路の向こう側に青白いシルエットの城のようなものを見つけて、右京が浮いた声を上げた。

 ランドやシーが千葉であることくらいは今どきの若者にも常識として残っている。モニター越しでも右京の口角がつり上がっているのがわかった。

 「多分ここはまだ東京都――だと思う」慎重に言葉を選ぶアラタ。

 臨海公園の観覧車を背に、鰐の姿をした巨大獣が今まさに降り立とうとしていた。大柄な巨大獣の体躯に比して公園の木々は小さく、さながら川辺のブッシュに身を置いているように見える。


 「――いかん!戦場を変えるぞ」突然鳳が口早に放った。

 「なによ急に。ランドとかシーとかちょっと見てみたいって思っただけじゃん」

 あまりに唐突な発言に、右京が訳もなく慌てた様子になる。


 「そういう問題じゃない」

 「ランドもシーも、今はやってない(営業していない)ことくらい知ってるよ!」

 「そういうことじゃないんだ。今いるこの場所がダメなんだ」鳳の語気が強さを増す。強引にミンケイバーを前進させる。

 

 「おいおい!横暴かよ。策もなく情報の少ない敵に突っ込んでいくやつがあるか!」太平洋が制止を促すが鳳に聞く耳なさそうだ。着地してすぐに走り出す。機体が振動で派手に揺れ、まだ環境に慣れていないアラタがコクピットで苦悶の表情になる。

 

 これは――噂以上の、揺れだ。


 思わず吐きそうになる。もしここで彼が吐いたとしたならコクピット内は悲惨なことになるだろう。

 ――ぐっとこらえる。


 もう二度と戦場で吐くもんか!

 

 他のメンバーは――ことに足にコクピットのある右京と左京は腹部に居る自分よりずっと酷いはずだ。それほどこの不規則な振動と揺れは体にこたえる。


 全長60mを超えるミンケイバーの一歩は大きく、あっという間に鰐の巨大獣との間合いが詰まる。


 「いくぞッ!ふううううりん!かざぁあああぁん!」鳳のかけ声とともに肩口から刀の柄が現れる。

 30mあった沖縄の屋久杉を切り出した名刀『風林火山』だ。毎度のことながらいったいどこにそんな武器が収納されているのか。ちなみに柄にはお約束のように風林火山の四文字がしっかりと刻印されていることは言うまでもない。


 気合一閃。


 轟音とともに超電磁の力で放つ膂力の一撃は、折からの日照不足で万年くすんだ落葉樹の葉を横薙ぎに一閃した。鰐の巨大獣は地面にめり込むほどに身をかがめ、頭上にて斬撃を見送った。


 「外してんじゃないよ!」右京ならぬ左京が叫んだ。ミンケイバーは普段おとなしい人格をも過激に変遷させる。

 巨大獣が身軽に後方に飛び退く。

 

 「いいんだ。このまま江東区まで敵を下がらせる」鳳の目は真剣だ。

 「そんなにネズミのお城が大事なわけぇ?」右京が煽る。

 「やめなよ右京。バイト代が飛んで借金抱えるのはイヤでしょ?」左京がうんざりした表情で会話に混じる。 

 「ああ。そういや俺ら、都内以外で戦闘行為があったらなんかダメなんだっけ?」と大地駆。

 

 「そうだ」


 「俺たちは東京都との契約で都内の戦闘行為に限り、()()()()()()()()()()()。だがいったん都外での損害を起こした場合はその限りじゃなくなる――つまり」

 「――つまり?」鳳の言葉が神妙になり、右京が息をのむ。

 「他県のなにかを少しでも壊そうものなら、それらの支払いは全部自腹になる」


 「無茶だ!」その場の全員が悲痛な叫び声をあげた。

 

 それはミンケイバーの合身後の武装のほとんどが大量殺戮兵器であると搭乗者の全員が認めているからこその意見の合致と言えた。


 「未来が、昏いな」月影アラタが悲壮な顔で天を仰いだ。もちろんそこに月はなく、太陽もまたない。

節は大寒だというのに世間では花粉症の方が出ているようで。あったかくなったり寒くなったりと忙しい時期ですが皆さま体調にはお気をつけあそばしてくださいましね

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