日本2062 有限会社ミンケイの場合の、7
ぶ厚い雲のはざ間から重く湿った音が下りてきた。あきらかに周囲の空気が変化していたが、無人偵察円盤の残党は変わらず無機質に地上への攻撃を繰り返していた。
円盤が最初に人類――いや、日本に襲撃をかけてきたのは今からおおよそ三十余年も前になる。
最初の頃の円盤は当初地球環境に慣れていなかったのか原因不明の墜落などもよく目撃されていたし、当時の在留米軍の戦闘機でも充分に太刀打ちできていた。米軍が日本から退去してからは国防の先端を自衛隊が率先して担うことになって戦況は不利気味に推移したものの、それでも壊滅することなく現在に至っている。
自衛隊が本格的に本腰を入れることができた背景に、軍備再編と国防に関する認識の拡大と変更があったことは言うまでもない。米軍の後ろ盾が存在しなくなり、周辺各国との情報共有が絶たれた状態にあってなお『専守防衛』にこだわる選択を、国民の誰もが望むはずもなかった。
かくして自衛隊という名は形骸として残ったものの、現在の日本は侵略軍の標的にされた東京を中心に軍隊を再編――いや再組成していた。
それは旧時代に日本が破棄した鎖国に近いものだったが、国民のほとんどがその案件に対して批判的ではなかった。
無人偵察円盤がこれまで行ってきた行動には主に「破壊」、「拉致」、「殺戮」がある。これは事の真意を完全に把握できないあくまでも当て推量の域を出ないものであった。何故なら散発的ともいえる彼らの行動には不明な点が多く、現在の――いや、当時のと言った方が正確であろう――科学力で圧倒的な差があった状態にあって事態の仔細をつぶさには把握することが叶わなかったからである。
それは2062年の現在にあってもそう変わるものではなかったが、やられっぱなしを良しとしない日本の民族性がそうさせたのか、正体不明の円盤の正体についてはそこそこの見解が有象無象問わず各所で論じられ、まとめあげられてきていた。
情報に胡乱なものが多かったとはいえ、これまで長らく繁栄を続けてきていただけあって、人類はある程度核心に近づく成果とそれに対抗するための手段を得るに至る。
対抗手段としてのそれが自衛隊のトルーパーズであり、各民間の企業に丸投げした結果の産物である、ミンケイ並びに日流研などのロボット達であった。
無人偵察円盤の鹵獲について日本政府が報奨金を減額するなどの消極的になった背景にはそれら組織の協力――成果があった。
鹵獲、破損部品を調査研究した分析結果から、これまで無人偵察円盤が、発生当初からまったく形態的に進化してこなかったことと、円盤に使用されている部品が地球の技術体系に即していることが確認された。
つまり無人偵察円盤は地球製のものであり、それらは金属の組成状態から鑑みて、現在もなおどこかで生産がなされていると研究機関は結論づけた。
国の上層部は報告を受け、真っ先に自国以外の存在に疑いの目を向けた。それは至極当然のことと言えたが、太陽風の影響で現在情報途絶状態にある日本にあって敵国の特定ができるわけもなかった。
なにより、地球製と思しき無人偵察円盤には時に別の存在が付きまとってきていた。
その存在は極めて正体不明だったため、日本政府は情報の不要な公開も仮想敵国についての情報の一切も、国民に報じることができないでいた。
それが――!
「やっぱり出てきたか。でも、あれは『鳳輦』とは、違う。どうすればいい」月影アラタは歯をギリッと軋ませた。
分厚く湿った音の正体。
黒い粒子を体から湯気のように漂わせながら、それは降りてきた。
それは巨大な鰐の姿をしていた。
アンノウン――それはあきらかに地球製のものではない存在。
「巨大獣か!」
その場に居合わせた全員が口を揃えた。鋭い緊張が奔る。
くたっと眠ってしまい、投稿が今頃という結果に・・・。今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。




