日本2062 有限会社ミンケイの場合の、4
一時期はおとなしくしていたっていうのに――。
無人偵察円盤の数がいつもより多いことに大地駆は苛立っていた。
なんで今日に限って!
、
カレンダー付スケジュール手帳には、たった一行「今日は六時待ち合わせ」と書いてある。
毎年使いもしないのに習慣で買ってしまっている手帳は数年分が部屋に積んである。
「社会人になるのだからスケジュールくらいちゃんとまとめなさいよ」という母親の教えを大地はこれまで律儀にも守り通していた。
ケイバ―アームの時計は午後二時を表示している。
戻って、機体を片付けて、急いで家に帰って、シャワー浴びて、服見繕って、バイクで――間に合うかな?
ああまてよ?バイクで行ったら酒が飲めないぞ。ちゃんとしたとこに預けたら金はかかるし――ええい、クソ。なんでよりにもよって今日なんだよ!
「ケイバぁぁ!カッタぁぁァッ!」
ケイバ―アームから鋭く研ぎ澄まされた鋼鉄製の刃が回転しながら射出された。
ケイバ―カッター。
刃渡り実に3m。腕部分のどこにそんな長さの刃物が収納されているのかは、設計者の神宮寺以外知る者はいない。空気を切り裂き唸りを上げた刃は旋回した無人偵察円盤の鼻先をかすめて地表へと飛んでいき、清砂大橋を吊るケーブルを二本ばかりバッサリ斬り落とすとそのまま荒川へと落ちた。
壮大な水しぶきが橋上まで到達する高さまで上がる。
「――ええい!よけやがって」
「――避けやがってじゃねえ!危うく大惨事だぞ。無闇にそんな武器使うんじゃない」大地駆のインカムに鳳の厳しい声が届く。
「だってあいつら、ちょろちょろとうるせえんだよ!」
「もっとこう、周りに被害の少ない武器を選べって言ってるんだ。ケイバ―苦無とかあっただろうが」
「それが使用不可能武器になってて装備から外されてる」
「なんだって!?」
そういえば数日前のミーティングで、神宮寺が搭載武器の大幅縮小をしたと言っていたことを思い出す。おいおい、まさかだろ?慌てて鳳もケイバ―ジェットの武装を確認する。
ケイバ―バルカンとケイバ―カッターは無事使えるようだ。というより頭部担当のケイバ―ジェットにはサイズの問題でこの二つ以外の武器は搭載されていない。
しかし30mmバルカンの弾数は最大値の半分を示している。
「神宮司所長!こちらケイバ―ジェット鳳です」
「…………」
通信途絶の表示はない。確実に聞こえているはずだった。
「神宮司博士!こちらケイバ―ジェット、鳳です」
「――どうした鳳」
どうしたじゃないよ。鳳は黄色いヘルメットの隙間から指を入れて頭を掻いた。これはイライラした時に出る鳳の癖で、頭を軍手で擦ることで自分を落ち着かせる行動だ。
これ以上ストレスが増えようものなら髪の毛がなくなってしまう。過去に鳳はチームリーダーを任された際、胃痛で数日会社を欠勤した経緯を持つ。ガタイはいいのに彼の心臓はやや小ぶりなのだ。
鳳は失望のため息をついた。このため息も彼がストレスを緩和するために生み出した負の産物だったが、どうにかそれで、これまで心が壊れずにいた。
ところで神宮寺時宗という男は普段の土木作業の仕事をしている際は所長なり社長という言葉で反応してくれるが、いざミンケイバーでの出撃時には何故か『神宮司博士』と呼ばない限りシカトを決め込む節があった。どうも彼なりのこだわりがそこにはあるらしいが、社員にとってみれば正直どうでもいいことだ。今回がまさにそれだった。
「武装がずいぶん減らされていて、苦戦を強いられています。なにか指示を!」鳳は余計なことはいっさい口にせず、問題点だけを端的に伝える。
対して神宮寺は、こいつは一体何を言っているのか?と言わんばかりに顔を歪ませた。
「武器が少なければ合身して戦えばよい。何のための合体ロボなのか?」
そんな「パンがなければお菓子を食べればいい」みたいな理屈を、今言うか!
鳳は頭に血がのぼるのを実感していた。合身すれば武装は増えるだろうが、今回のケースのように無人偵察円盤の数が多く散り散りになっている場合には機動力重視の戦法の方が効率がいいのはあきらかだ。ただでさえでかいミンケイバーは、合体することでその機動力は激減する。燃費もその分悪化するため稼働時間も極端に少なくなってしまう。
「合体すればなんでもかんでもうまくいくとか思ってんじゃねえぞ!」
鳳皇が、キレた。
往々にして普段従順に見えるタイプは、一旦キレると手がつけられなくなる場合が多い。
今回がまさにそれだ。
ロボットものなのに社会背景とか人間関係とかの描写が多くてすみません。ようやくロボット活劇っぽい段に入りましたのでどうぞよろしくお願いします。




