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登場!7体合身ミンケイバー7Y!、の7

 「何だ!?」

 爆散したはずのカニの巨大獣から装甲の焼け焦げた臭いと黒くネットリとした煙が立ち昇る。その煙の中で蠢く幾つもの小さい影。それがカニの巨大獣を小さくしたものである事と気付くのにそれほど時間はかからなかった。

 「なんと子持ちか!」

 一匹一匹はおそらく成人男性程の大きさなのであろうが、何せその数たるや脅威足りえるものだ。巨大獣を粉々に粉砕した欠片とほとんど同じくらいの数がわちゃわちゃと世田谷の街中へと移動しようとしている。たちどころに区民の悲鳴が響き渡る。

 「うぐっ!俺はこういうのは、苦手だ」と青い顔をする鳳。

 「だがこのままじゃ街がヤバいことになる!」

 「そうだぞリーダー。ミンケイの評判がまた落ちる!」

 「またとか言うんじゃないよ!あと太平、こんな時だけリーダーとか呼ぶな!お前の魂胆が透けて見えるんだよ!」

 「そうだぞ太平!」

 「大地(おまえ)も似たようなもんだろうが!人に下駄を預けるくらいなら何か知恵でも出してくれよ!」

 「そういうの引っくるめて(合体ロボの頭)やってんだろうが!」

 「上手い!」

 「全然上手くないッ!」

 「ーーちょっと!あんた達この非常時につまんないことしてんじゃないわよ」上空から凛とした檄が割って入る。と、同時にコクピットモニターに女子二人の姿が追加される。

 「右京!左京!来てくれたか!」

 6号機、7号機が上空に見えた。通称、ケイバーシューズ右と左だ。

 「とりあえずそいつらが街中に広がる前に叩き潰しなさいよ!」右京の尖った声。

 「!叩き潰すか!わかった。うおおっ、ケイッバアァァァーーー!」

 鳳が右手レバーをグルリと捻り、ボタンを押す。

 「超!電撃ッ!ーー!」

 地面に突き刺さったままだったミンケイバー7Yの機体がズイッと抜けて、宙に舞う。

 「ーーィィメンコォおぉぉぉぉッ!」

 ミンケイバーの天高く掲げた指先に、(きら)めく電撃を(まと)った長方形のエネルギー体が形成されていく。ミンケイバーの右手人差し指と中指がその光の長方形を挟むやいなや!

 ()()()()()()を、地面に向けて叩きつけた!!

 超電撃メンコ!が、地面に触れた刹那、近隣四方に電撃が、金色の蛇がのたうつがごとく波状に広がっていった。電撃に触れた子ガニの群れがみるみる黒炭へと変わっていく!

 「ち、ちょーッ!やりすぎないでよ。人まで焦げたらどうすんのよ!」叫ぶ右京。

 「大事の前の小事‥‥」ボソリと左京の声をマイクが拾う。

 「うむ。なんとかに口無しともいうな」と、太平。

 「物騒な事を言うな!ちゃんと加減したぞ」

 「え?俺、微調整頼まれてなかったよな?」鳳の言葉に大地が眉をひそめる。

 「あのさ、音波通信は意外と周りに聞こえちゃう時あるんだからさ。気をつけてよマジなとこ」

 半ば事務的に被害範囲と状況を分析した上で、被害がないと確認を取った右京が呆れ声を出す。


 「そんなことより、これよ‥‥‥」


 カニに似た大型獣とその子ガニは無事に殲滅した。しかし戦場となった世田谷の被害は控えめに見ても甚大で、一角などという可愛いものではなく、あたり一面が広く焦土と化していた。これまでの侵略をどうにか耐えてきたビル群の多くが無惨にも倒れ、崩れ、瓦礫の山となってしまっている。

 幾度もの(ミンケイバーによる)爆撃が集中して行なわれた現場では、(くすぶ)りの収まらない黒煙が濛々(もうもう)とあたりを覆い、あちこちで電撃の余韻が光の花火のごとくちりついていた。

 それでも事態がどうにか収束を迎えたというのがわかったのか、あちこちから世田谷区民がざわめきとともに姿を見せはじめる。


 「ーーどうすんのよ、これ」右京が小声でこぼす。触れ合い会話のため外に漏れる声量ではない。

 「どうもこうも‥‥」モニターの中で互いの顔色を伺いあう。

 そんな中、しれっと鳳皇が口を開いた。


 「ーー強敵だった。誰かがやらねばならなかった。それがたまたま、たまたま我々だった。そういうことだーー」


 鳳はこの微妙な空気を上手くまとめたつもりでいるのだろうが、右京が聞きたかったことはそんなベタな残念まとめなどではなかった。

 どうせやるならもっと上手くやる方法はなかったのか、本当はそう問いただしたかった。しかし、ついぞその言葉が口をつくことはなかった。民間警備会社ミンケイに集っている人材の誰もが(自身の祖父を含め)ロクでもない奴らの集合体だと右京自身がよく理解していたからだ。

 こんな狂気に塗れた集団が跋扈(ばっこ)する世界を、今を生きる誰一人として止めることができない。それが今の時流なのだ。


 綺麗事なんてものはもうとっくの昔に改竄(かいざん)されていて各々の勝手な正しさが蔓延(はびこ)っている今、この世にはまともを正しく伝えることが出来る存在なんてものはとうにそこなわれてしまっているのかもしれない。


 そんなことを考える右京でさえ、考える以上のことはしない。最近はそれさえ無駄なことなんだろうな、と諦めているからだ。

 

 正しいか正しくないかは別として、この場は収まった。

 そういうことだ。


 「あとは後世の歴史家の判断に任せれば良いんじゃないの?」左京がボソっとそんなことを言ったのが聞こえた。


 

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