日本2062 有限会社ミンケイの場合の、2
「ケイバ―ジェット、鳳、発進スタンバイ」
「ケイバ―アーム――イカロス。大地スタンバイ」
「ケイバ―足――左右、太平洋、スタンバイ」
「――こら、大地。ケイバ―アームをイカロスとかいうのやめろ。あと太平洋、ケイバ―レッグを雑にまとめるな」
「おじいちゃん、ケイバ―シューズライト、右京、行きます!」
「……同レフト、発進します」
「おお、気をつけてな?戦果なんかいいから怪我をしないよう無事に帰っておいで」
神宮寺時宗の対応の差に、大地駆と太平洋がコクピット内の同じタイミングで渋い顔をした。
有限会社はこういうところがダメなんだよな――ケイバ―ジェットの鳳皇も息をつく。
身内びいきがわからんでもないが、過ぎるとそれは毒になる可能性がある――。
そんなことを平生考えているが鳳に特段他の良質な就職先があるわけではない。転職情報を細かくチェックする中で鳳がこの職場を離れなかった理由はまさにそこにある。なんだかんだ言ったとしても現在の東京都にあってミンケイはそこそこ破格の待遇であるのに違いはなかった。
ぶつくさと聞き取り難い文句をもらしてケイバ―ジェットが飛翔する。
太平洋たちがそれに続いた。
「ケイバ―ボディー。三号機、月影アラタ――出ます」
最後に月影の機体が地下倉庫から顔を出す。三号機ケイバ―ボディーが月影に与えられたマシンだ。
彼の丁寧な操作技術は地下施設からコクピット部分が覗いた瞬間からはっきりとわかるものだった。
どこが――という訳ではないのだが、月影の運転は傍目で見ていて危なっかしさが見当たらない。
まあまず事故とは無縁なのだろうなと思えてくるから不思議だ。
これぞ理想的発進だ!と神宮寺時宗は心中で絶賛した。
右京かもしくは左京のどちらでもいいから彼に見初められてくれたらと思わないでもなかったが、そればかりは神の味噌汁だと神宮寺自身理解はしていた。
味噌と具がしっかりしていなければ味噌汁の完全調和はありえない。
それには味噌だけが良くてもだめで、同時に具だけが良いというわけではなかった。
男と女の話は、正直責任を持てる話はできない。自身、脛に多数の傷を得た身だ。
月影アラタの入社によって、これまで合体したまま放置されていたミンケイバーのケイバ―アームとケイバ―ボディーが各々で分離運用できるようになっていた。そのことでそれまで二台連結のまま窮屈な運用を余儀なくされていた大地駆の負担は大きく減った。
月影アラタはとにかく細かいことによく気づく青年でもあった。
これまで誰もがわかっていて放置してきたことに次々と着目し、プレハブ内や地下施設の使い勝手を決して誰からも嫌味とはとられないような形で見直したりもしていた。
ことに三号機のケイバ―ボディーを倉庫最後方に収納することは、これまで最後尾出車であった右京と左京の心象をかなり上げる結果になっていた。
「月影さんわかってるよねぇ。ここの地下を最後まで歩くのってホント疲れるの。学校終わって帰ってきてから出動なんて日には怠くって怠くって」
「最地下まで下りなくてすむの、地味に嬉しい……」
「神には祈らん。なるようになるのをじっと待つのがよかろう」孫二人も月影に対して好意的な感触があった。今度国から報酬が出たら地下施設に動く歩道でも導入しようか、そんな思いを神宮寺は馳せていた。
天気は相変わらずの曇り空だった。アラタが紫外線を少しでも緩和するためにと気まぐれに貼ったコクピット内部のサンスクリーンが今日もいい仕事をしている。レーダー機能と装甲が充実しているケイバ―ボディーで位置を確認する。これならすぐにでも先発隊に追いつけるだろう。
月影アラタはサングラスをかけ、三号機を江戸川区に向けて加速した。




