インターミッションその2 それぞれの内部事情の、5
「最初に言っておきますが――僕にさほどの期待はしないでください。具体的には僕は遥少年を物理的に匿うことが困難です。それに類する手助けもしない方がいいでしょう」」
直情の傾向が強い柊陸曹が切鍔に食ってかかったのは、それだけ切鍔に心を赦していたからに他ならなかったからだが、そこは冷静に久能1士がとどめた。久能の視界に言葉を失って黙りこむ遥ローエングリンの姿が映る。
「よく聞きなさいよ。彼は協力しないなんて一言も言ってない」
「今の立場を利用できなくなることは避けたいという理解で間違ってませんかね?」田辺2士が繋げる。
柊陸曹の表情は荒く、今にも切鍔に飛びかかりそうになっている。痺れ薬で騙し討ちを受けたことをまだ引きずったままだ。
「勢いでどうにかなるならそれが誰にでも分かりやすくて良いんですがね。事は往々にして単純じゃありません」そう呟いて、切鍔は机に無造作に置いてあるリモコンを手にすると、電源らしきものを押した。
室内の壁という壁に映像が投影された。それはざっと見ただけでもここ数時間に起きたあらゆる事象のニュースであり、おそらく切鍔によってピックアップされたカテゴリ別の情報だった。画面の隅にはこの建物内におけるリアルタイムの映像まで表示されている。
「この部屋の録画映像まである。これは俺たちが少年を連れて入ってきたときの映像だ」
柊の顔が青ざめた。
「全部、筒抜けだったってことですか?」田辺が言葉を絞りだす。
「通報することもできましたよ?でも僕の興味の方が勝ってしまった。僕には理解ができなかった。報連相が徹底されている組織下にあって、君たちがとった行動は相反するものだった。世が世なら軍法会議ものでしょう?」
真剣な表情を崩さない切鍔に、今にも消え入りそうに消沈している遥少年。場が、重苦しいものに変容していく中、それを壊したのは田辺2士だった。
田辺保はあまりにもまっとうに理論攻めをしてくる切鍔に共感していた。正直今の今まで「そりゃそうだ」と思っていた。切鍔の話は田辺にとっても200パーセント同意できる話だ。
しかし今まさに壁に投影されている映像――遥少年を柊陸曹とともに抱えてこのビルに侵入している自分のあまりにも真剣な姿に、田辺は覚えず失笑してしまっていた。
「久能さんのこの真面目な顔」人目を避けながらビル内を先行していく仲間の姿。それを追随する自分。客観的に見てそれは田辺が普段とる行動ではないとわかった。
「多分、理屈じゃないんですよね。うちの馬鹿隊長が指揮ると、僕でもこんなに真面目な顔するんだ」あはははははは、と高らかに田辺が笑った。
「うちの隊長が少年を保護しようっていうんなら、保護するだけの大義が彼の中にあるんでしょう。しかたないからつきあいますよ」
「わ、私もです!」久能が右手で自身の胸を叩く。
「話の趨勢はある程度定まったようですね。そのうえで――少年、どうやら後は君の心ひとつのようなんですが、さて、どうします?」




