インターミッションその2 それぞれの内部事情の、3
遥ローエングリン、四十四年生まれということは、今十――六歳かな。保護者は遥迅速――職業はドライバー?これまで何も運んでいる形跡もないのに?名前も珍しいけど素性はもっと珍しいね。
ふむ、君が現在通っている高校へ来るまでの経歴は――と、これまた興味深い。
ここまで淡々と話をして、宇宙人侵略対策主任、切鍔競は一度大きく息をついた。
「客観的に自分自身を問い詰めたことはあるかい?僕はある。そして気づくんだ。余程でなければ自分というフィルターを取り除くなんてことはできないってことをね。どうやってもどこかで甘さが出る。私見が事実を歪ませるんだ。結局、人は見たい自分しか自分には見せてはくれないってわかるようになる」
切鍔競はぐるぐると部屋中を闊歩しながら続ける。
「自分自身をを知ってしまうことが必ずしも正しいことだとは思わない。もし自分が悪人で趣味が人を意味なく傷つけてしまうことだなんて知ったら、僕なら到底耐えられない。幸い、幸いにも僕にはその癖がなかった。正直喜んだね。むやみに人を傷つける人間じゃないんだってお墨付きをもらったときはさ。ただね、悲しいかな僕は自分がとことん納得するまで他人を信じることができない人間だっていうことも同時に知らされたんだよ。こっちのお墨付きは正直とても僕にとって歓迎しかねるものだったけれど、そのおかげで僕は今のこの地位にいることができる」
蜘蛛が、獲物を網に捉えて捕食するさまに、今の状況はとても似ていた。違う点があるとするなら本能のまま襲ってくるのではなくよくわからない説教をかましてくる点だ。
遥ローエングリンの身体にも痺れの兆候は出始めていた。じわじわと手先が利かなくなってきていたし思考も単調になってきている気がしていた。自白剤も同時に盛られているのかもしれないな、と思った。自衛隊の三人はすでに体中に麻痺が進行しているらしくソファーから立ち上がることができずにいる。短髪のリーダー格らしき青年が「少年、君だけはどうあっても逃がしてやる」そう呟いているのが聞こえたが、客観的に見て、他の誰よりも彼の麻痺がもっとも強い効果を見せていた。切鍔という男が彼にだけ麻痺薬の分量を多めに盛った可能性は否定できない。
「まあ、話が横道に逸れてしまったことは素直に謝るとして、ここはどうだろう君が僕に正直に本当のことを話してくれればいいと思っているんだが――」
次にくる言葉の予想は薬で雑な思考に誘導されつつある遥ローエングリンの今の状況下でもたやすく想像できた。部屋の中を落ち着きなく歩き続けていた切鍔が、一直線にこっちに向かって歩み寄ってきた。間近で顔を、正確には目を――瞳や唇、発汗具合を丹念に舐る。
「僕はね、君を宇宙人だと思っている節がある」
そら――きた。
素直に否定しても信じてもらえないだろう暗闇への一直線の、唯一の道だ。




