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黒い兎の子、の6

 「ああいうの見たことある。たしか小学校とかによくある銅像」

 久能1士の言いたいことはなんとなくわかった。背中に薪を背負った二宮金次郎とでも考えたのだろう。しかし上空の()()はあきらかに成人男性に見えた。

 「二宮さんはあんなに大きくないですって!」田辺2士が叫ぶ。巨大獣の体躯をしてそう口走ったのではない。薪を背負いゆっくりと下降してくる巨大獣のディティールがあきらかに少年のそれではなかったことを示唆したのだが、その場に居合わせた誰一人として田辺の意図を解してはくれなかった。


 「カニときて、ロバときて、ついには二宮金次郎とはッ!」柊陸曹がマシンガンを連射する。

 しかし山なりになった軌道は巨大獣にまったく届いていない。

 「ちょっと陸曹!無駄弾撃つんじゃないわよ!後で連帯責任だってI.P.U(ブレーン)に文句言われるんだからださ!」 

 「届かない装備を持たせる方に問題があるんだよッ!」久能の言葉に柊が吼えた。

 ブースターを吹かして低空を飛び、なるべく地表を荒らさないよう着地を少なめに移動する。一見雑に思われがちな柊の意外な特技だ。そういう一端において近接戦闘に特化したアタックトルーパーが柊に配備されたことはあながち的外れでないと言えた。


 薪を背負った巨大獣の背中――薪部分に爆光が奔る。キャノントルーパーの160mmキャノン砲が命中して、遅れる形で爆風と爆音が三鷹市に降りそそいだ。

 「命中はしましたが、効いてはいないようです――オーヴァー?」

 「双方向通信なんだから、そういうカッコつけんのやめなさいよ田辺くん――オーヴァー?」

 久能のガントルーパーの照準がロックマークを刻む。すかさずトリガーを引くと肩部分から白煙を上げてミサイルが発射された。追尾式のミサイルは巨大獣の正面腹部で複数の爆炎を上げる。

 

 「多弾頭かよ!」柊が恨めし気に呻く。素早く機を運んでいるもののアタックトルーパーの射程距離にはまだ遠く、届いた頃には戦闘が終了してしまうのではないかと気が急いた。編成上の都合とはいえ、やりきれない思いは拭えない。

 戦場が市街地であることも災いしていた。人感レーダーで住民を、視覚で建物を避けながら最短ルートを走るのはことのほか厄介な作業だ。いかに災害であるとはいえ、任務中に自衛隊機が事故を起こしたりすれば、それはそれで世間から叩かれることになる。

 ことのほか面倒が多い職ではあったが、それでも柊陸曹率いるトルーパーズは他の自衛隊のどのチームよりも優秀で、任務達成率は群を抜いていた。


 巨大獣の横っ面に田辺機のキャノン砲が再び炸裂して、空中で体勢が傾く。しかし真っ黒な外観ゆえか損傷が明確にならない。

 「陸曹、そちらから見て効いた感じありますか?ここからじゃ手ごたえが感じられなくて」

 「効いてない、とは言わないが(やっこ)さんの着地前に片をつけないと街が潰されるぞ。もっと火線を敵の中央に集中させろ。あいつらの頭部は多分お飾りだ。それに攻撃範囲は思ったより広くないぞ」


 ラジャー!


 相変わらず巨大獣の考えは全く読めないが、街を破壊することが目的ではないように思えた。街を破壊する気なら、今頃とうにやっているだろう。


 「ええい、まったくわからんッ!」柊陸曹は考えるのをやめた。

 

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