インターミッション それぞれの内部事情の、6
「実際のとこどうだったんだい?後にも先にも巨大獣に触れることができたのは柊陸曹、君だけだ」切鍔主任の瞳には興味と慎重さが同居していた。やや興味の方が勝っているか――柊にはそう見えた。
「そうですね、触れたのは本当に一瞬で。しかし、そう硬いだけといった感じはなくて……」
「熱いとか、冷たかったとかは?」
特になかったですね、と柊は記憶を細部まで呼び起こそうと顔に険を浮かべた。こめかみの部分が熱を持ち、青筋が浮かんでいる。
地球侵略軍の巨大兵器、通称「巨大獣」の正体については、これまでほとんどと言っていいほど手がかりがなかった。まして直に外皮装甲に手を触れたものなど皆無だったため、報告を受けた際、上層部は柊陸曹を拘束の上隔離して研究対象にしようという話まで持ち上がったほどだった。一昼夜を費やした検査の結果、接触した部位や体内からこれといった異常が認められなかったこともあって現在こうやって任務に復帰しているが、現場に居合わせたトルーパーズの三人をいまだ危険視する者も少数存在した。
今回わかったことは大型獣が無人兵器であることと、証拠を残さないために分子レベルまで自身を破壊できる術をもっていることだ。
「細かいことは全然何もわかっていない」それが結論だった。
「君は大変な機会を逃したのだ」そう陸将に告げられた際、柊の頭に真っ先に浮かんだことは、『帰投した際手洗いうがいをしなければよかったのだろうか?』ということだった。
柊がそんな調子であったため、いくつかの問答の後、切鍔は質問することをやめた。彼のおおらかな性格では、現場で余程わかりやすいことでも起こらなかったなら自分が望むような答えは今後においても期待できないだろうと理解したからだ。
「君は――純粋兵士なのだな」という切鍔の言葉に、柊は強張った顔を緩め「光栄であります!」と誇らしげに答えた。




