インターミッション それぞれの内部事情の、5
ノックをして入室した柊陸曹らに、切鍔競は瞼を重くして頬杖をついた状態で出迎えた。
「失礼、お休み中でしたか?」
いや、と気怠そうに答えると、切鍔は右手人差し指で二度三度机の上のノートパソコンを指さした。
驚くほど元気のいい男女の声が、交互に繰り返されている。
「現場に出ないデスクワークの公僕だと勤務時間内に夫婦漫才が見れるんですか?いいですね、お暇そうで」悪気のなさそうな表情でいて、それでも毒たっぷりの言葉を嘆息まじりに久能がこぼした。
やめとけ、と柊が釘を刺す。
「いいんだよ、もうかれこれ二時間、彼らは堂々巡りの会話をしてる。僕が割って入る隙なんてものさえないんだ。できればその毒舌で彼らのしょうもない話に終止符を打ってもらいたいくらいだ」切鍔の声は切実だ。
切鍔の背後に回ってPC画面を覗いた田辺が、げッ!と発し表情を曇らせる。後ずさる。
「仕事でなければ俺もこれは御免被りますねええ」
「これは、確かに、犬も食わんヤツだ」柊が、そして久能までもPCのむこうに居る二人の人物を見て言葉をなくす。
「君たちが来る前に終わると思ってた僕が甘かった。ごらんの通りだ」
ミンケイの神宮寺と日流研の丸目が、それぞれ画面のむこうで目を血走らせて怒鳴りあっていた。
まるで猿の檻だわ、と久能が洩らすと、どうもそれが耳に入ったらしく「今言ったのは誰!?さては自衛隊の阿婆擦れね!」と、すかさず丸目女史の金切り声が飛んでくる。
「――まるでトラのおしっこね」襲いかかって来られるわけでもないのに、久能が飛び退いてフレームアウトする。
切鍔がつとめて落ち着いた声色でPCのむこうの二人に向かって「来客のため席を外す」旨を伝え、一時的に音声を閉じた。
「良かったんですか?」
「いいさ。どうせまだまだ続く。この間なんか特に今回のようなもめごとがなかったのに三時間だ。あの年にもなればお互いに言いたいことも山積するんだろうさ」放っとくに限る、と切鍔。
まあ、と前置きを挟み「今日呼んだのは、まあ別件のついでではあるんだけれど、実際話を聞きたくてね」机の上で両手を組んで肘をつく。
「伺っています。目の前で消えた大型獣について、ですよね」




