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インターミッション それぞれの内部事情の、4

 仄暗い通信室に、実に機嫌よさげな高笑いがカラカラと響く。


 日本流体力学研究所所長、丸目長恵の笑い声だ。


 この音さ、すっかり乾ききった竹が互いにぶつかり合って鳴る時代劇に出てくる――なんだっけ?あれに似てない?とマレはダオに振った。

 

 モニターで別作業をしていたダオが不機嫌そうに「いきなりだな」と返してくる。


 「日本の時代劇に出てくる、あれだ。よく悪党が立てこもったボロ屋敷とか山の中の廃寺のまわりに仕掛けておくアレよ……」マレが腕組みをして思案する素振りを見せ、ようやっと思い当たったのか「あああ、あれだあれ、コケ……いや、シシ……」と切れ切れに言葉を紡ぐ。


 「多分それ、鳴子(なるこ)じゃないですかね」

 鹿威し(ししおどし)と発しそうになるマレに、そっと差し込むように小笠原ミルが合の手を入れる。手に持ったトレイからダオにブラックコーヒー、マレにインスタントのカフェモカの入ったカップを、それぞれの手に取りやすいであろう場所に置く。


 マレは「そうそうそれそれよ」と告げ、軽く小首をかしげてミルに会釈する。口にカフェモカを運ぶ。熱すぎず、決してぬるくない温度にマレは思わずニヤリとさせられた。一気に謎も解決、味も最高、タイミングも上々ってか。どこぞの名探偵かよ。


 対照的にダオは置かれたカップを一瞥し、「精密機器の上に液体置かないでって。こぼれたらどうする気なの?」と鋭い声を出す。

 強い溜息まじりの息を吐き、カップを手にして口に運ぶ。


 ん?と目元がほころぶのがマレとミルにも見えた。


 「気に入らなきゃ飲まなきゃいいじゃん」と、意地悪気にマレ。


 「誰も飲まないなんて言ってないでしょ」もうひと口、ダオがコーヒーを口にする。呼気に混じってコーヒーの独特な香りが周囲に渡っていく。


 「フレンチブレンドかしらね。私、これ結構好みだわ」と、ダオ。

 「それって礼のつもり?」茶々をすかさず入れるマレ。


 その様子を楽し気に小笠原ミルは眺めていた。


 「それにしてもミル、まだ若いのに鳴子なんてよく知ってたね。ミルのまわりにまだ刀もったお侍でもいるわけ?」マレがいつもの軽口を叩く。マレは元来日本贔屓なところがある。出稼ぎ先に日本を選んだのだって、ひとえに侍の国を感じてみたかったからに他ならない。実際、これまで彼女(?)は数多くの時代劇関連のメディアを見てきていた。


 「私は生まれ変わったらこの国で侍になろうと思っている」と、研究所での面接の際に口にした言葉は、今でも語り草になっているほどだ。


 「お爺ちゃんが、あ、うちのですよ?侍の国の時代劇が好きで、それであの。聞きかじっていた程度なんですけどね」 

 小笠原ミルはマレの言葉に、珍しく()()()()()()()()()微妙な表情ををしてみせた。


 妙な違和感を、その時マレは感じた。勘のいいマレだからこそ感じた、本当に些細な違和感であった。


 


 

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