インターミッション それぞれの内部事情の、1
「誰がどう言おうが、断じて納得できるものではないッ!」
「しかし宇宙人侵略対策法案ではそういう規定になっているんです。佐藤さんももうこの業界長いんですから、そのあたりは重々ご承知のうえでしょう?」
「なぁら訊くが、あの腐れ研究所の役立たずお化けマシンとうちの超高性能合身巨大メカが戦ったら、一体どちらに軍配が上がるでしょうな!?」
「いや、佐藤さん。この場合、勝つとか負けるとかは問題ではなく」
「佐藤、ではない!神宮寺、神宮寺時宗であります!」
老人虐待に抵触するギリギリのラインは一体どこだ?
頭で考えると胃がぎゅうぎゅうと締めつけられて、良からぬ汁が絞りだされそうだ。吐きそうになるのを懸命に堪えて、宇宙人侵略対策室主任、通称出納係の切鍔競は「いいですか?」と再度切り出した。
「国家予算には当然限りがあります。年度という区切りで四月を頭に三月末までで年間の予算を立てるわけです」
それはわかっておる、と神宮寺時宗。
「宇宙人を止めることは急務です。できれば宇宙人にはこれから和睦なり降伏なり、全滅なりしていただきたい」
それもわかっておる、と神宮寺時宗。
「ですが!」あえて声を荒げる切鍔。
「戦いにおいて、あえて負けたいと思う者が果たしているでしょうか?」
そんなやつはおらんわな、と神宮寺時宗。
「でしょう。敵はいついかなる時にあっても襲い、略奪を繰り返します。ここまでは大丈夫ですか?」
う、む。と、神宮寺時宗。表情にいささか曇りが浮かぶ。
「そこでこの法案です。「宇宙人が侵略をおこない、それに相対した際、戦闘勝利より72時間以内に別の戦闘が開始された場合、たとえ別の場所での戦闘であったとしてもそれを同一事案と解釈し、戦闘終了時、一案件の金額をそれにかかった損害部分を試算したうえ案分すること」と宇宙人侵略対策法四条九項に明記されています」
神宮寺時宗が黙った。よくわからない、と顔に書いてある。
「まあつまり、佐藤さんのミンケイバーが侵略軍を撃退した72時間の間に、東京都港区で別の戦闘があったため、予算上一案件に組まれている金額を「ミンケイ」さんと「日流研」との間で折半することになるという話です。今回、お互いの撃墜数と都市にあたえた損害額を計算して案分した金額が、コレ、ということになります。こちらもそんなに都合よく金が出せるわけじゃないんですよ」
おわかりですかね、と切鍔が念を押す。
「つまりあのお化けマシンのせいで儂らの分け前が減る、と。そういうわけですかな?」
ようやくわかってくれたか、と切鍔は安堵の息を漏らす。
「到底納得できませんな」神宮寺時宗の目が通信モニターのむこうでめらめらと燃えているのがわかった。
ああ、ですよね。これまで一回だってまともにどうにか了承いただけたことなんかなかったですもんね。
簡単な通知事項でさえ、話のひと件ふた件はありましたもんね。この年代の人は 素直に物事を受け入れるなんてことをしない。なにかしらの難癖をつけて自分に有利に運ぼうと無駄な腐心をしてくる。
ああ、面倒くせぇ。
切鍔競は、椅子の背もたれにフラストレーションを乗せてもたれかかり、長く絶望的な息を吐いた。




