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一難の先にまた一難二難の、1

 有限会社ミンケイ社長、神宮寺時宗からの戦闘報告が宇宙人侵略対策課主任にして出納係――切鍔競(きりつばせる)になされたのは、調布市での戦闘が終了した次の日の昼のことだった。

 報告を受け、切鍔はしばしの間呼吸も瞬きすることも忘れ、ただひたすらに神宮寺の報告を頭で反芻した。そのうえで「何故この報告がこうも遅かったのか」と怒りのあまりに声を裏返した。

 「――はて?いつも通り報告の時間は厳守したはずですがな」

 「今回はいつもとは勝手が違う!飽くまでも報告を鵜呑みにするならば、だ。今回あなたがたが斃したと報告のあったヤックなる敵は、いつもの敵のようには消えなかったと言うじゃないか」

 「そうですな」

 「そうですな、じゃないでしょう。これは完全に敵が残した数少ない手がかり!そう、重大な手がかりになりえるものだ。いつもの無人円盤とは違う、ヤックはいわば現時点で敵の主力兵器と目されるものだ、違いますか!?」

 モニター越しにもわかる盛大なキレっぷりだ。神宮寺は大きくため息をついた。やはりこうなるだろうとわかっていたからだ。

 「そんなこた報告書を上げる段になって気づいたわ!報告書ができた時になってわかったんじゃからしょうがなかろうが!」それゆえ神宮寺はあえて切鍔にキレ返してみせた。


 先日ミンケイバーが帰投した後、鳳らに報告を受けた神宮寺は機体のあまりの損傷具合に言葉を失くした。強装甲を誇るミンケイバーがロボットアニメの最終回でしか許されないほど満身創痍の状態であったこともショックのひとつの要因ではあったが、手塩にかけて育ててきた二人の孫娘がマシンの損傷そっちのけでまあ甲斐甲斐しくロウ君をいたわるものだから、それを見た神宮寺は、ふつ、と意識を飛ばしてしまった。

 確かにロウ君が孫のどっちかとくっついてくれないだろうかと願った時期もあった。しかしそれは彼が月影アラタと名乗っていた時分の話であって、彼が遥彼方と月采女迦具夜の子供であるかもしれない可能性が浮上している今の現状にあってのものではない。正直言えばこうなった以上なるべく孫二人を拘らせたくはなかった。自然、行動も変わってくる。

 「いやいや、離れなさい離れなさい。ロウ君も疲れてはいるだろうが、なにもお前たち二人がかりで世話を焼く必要もないだろう。まずは自分たちのことを先に片づけなさい。その間ロウ君だってゆっくりさせることもできるから」ほぼほぼ邪魔者となって割って入り、ロウを二人から引き剥がす。右京、左京共に不本意な顔を見せたが知ったことではない。ソファーにロウを横たわらせると自然とため息が出た。

 「すみません……博士」ため息の意味を知ってか知らずか、ロウが小さく呻いた。本当に身体が思うようではないのだろう。

 「なに、儂とて君が全部悪いなどとは思ってはおらんよ。年を取るとこうした気苦労にばかり気をやってしまうのよ。今日だって孫たちを守ってくれたのだろう?本来なら感謝しかないところなのさ」

 ずいぶんと歯切れの悪い言葉を紡いだものだ。年をくうとこう言った言い回しばかりが上手くなっていけない。そう思いつつもどれも本心なのだ。そう考えるなら今のは自分も相手も適度に傷つける良い言い回しではなかっただろうか。

 明日以降のことを考えただけで気が重くなった。ミンケイバーの状態を見ただけでも修理には時間がかかるだろう。今日のうちに戦闘データを見て報告書を書かなければならない。鳳含めパイロットはすでに帰ってしまった。戦闘のあった次の日はミンケイは休日の定めだ。

 すっかり寝入ってしまったロウを眺めて、やはり孫たちに世話をさせるよりないなという結論に至る。老眼鏡を装着し、大型モニターに向かう。やるか、と呟いた言葉に覇気はない。

 

 

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