ライトスタッフ・ミスキャスティング、の2
芝浦公園付近はこれまで地球侵略軍の攻撃をあまり受けていない地域だ。多くの住民が地方に避難しただけで建築物はそのまま残っている。
大型獣は公園外のビルとビルの隙間に身を隠していた。
ノーシェイプと同様の体躯だが、細長い自身の体型を網目状に走る道路に上手く滑りこませている。
前後を背の高い頑強なビルに囲まれていることは守る側にとって一見有利な状況に思える。しかし攻め手が複数存在している場合、話はまったく変わってくる。
まず、密かに公園を抜け遠回りをした久能機がキャノントルーパーで大型獣の真後ろからの長距離射線を確保する。
ほぼ同時に大型獣の頭が向いている方向に田辺機が出現、わざと目に付くように銃を構える。
「大型獣サンドイッチの完成だ。その身体じゃ東京は狭いだろ!?」
完全に挟撃の態勢。大型獣がその巨躯を反転させるにはいささか道幅が足りない。
不利を知って空中へ大きくジャンプする。
「――それしかないよな!」
挟撃したビルの片方に機影があった。無防備に跳躍する大型獣を待ち構えていたのは近接戦闘特化機体、アタックトルーパーだ。両の手に鋭く尖ったダガーナイフを逆手に携え、ビルから飛び降りる。
上昇する大型獣と、それめがけて飛び込んだ柊機が空中で交差する――はずだった。
――ドゴゥ!と鈍い接触音が響いて、柊機が上空高く舞い上がった。
大型獣が柊のアタックトルーパーを体当たりで弾き飛ばしたのだ。
「陸曹――!」久能1士と田辺2士が同時に叫んだ。
「相対速度の計算ミスったぁ」柊。
「格好つけて跳んだりするからっ!」久能。
「……って、そんなことありますぅ!?」田辺。
大型獣は悠々と公園のど真ん中に着地。完全に包囲したと思われた射線も完全になくなってしまった。
「なあに、最初の状態に戻っただけのこと。気合い入れなおしていくぞおらあっ!」柊が自棄気味に叫ぶ。
迂回していた久能機の姿は公園からは見えない。反対側から攻めたてた田辺機はかろうじて視認できるものの、公園外周を囲っている街路樹で思ったように動けていない。
奇しくも公園中央で対峙しているのは柊機のみ。
ガシュンガシュンとどこか異音の混じった音を立てながら、柊機はダガーナイフを両手に構えたまま大型獣へ特攻する。
大型獣は助走距離を確保すべく、いったん公園の端、病院の建物側へと跳躍した。
しかし態勢を整える前に柊機が間合いを素早く詰め、ナイフを振るう。
一閃目――クルリと踵を返す大型獣。ナイフは空を切る。
二閃目――逆に先刻ノーシェイプが喰らった後ろ蹴りが柊機のボディど真ん中に命中した。機体がひしゃげる音と、衝撃で手から離れたダガーナイフの一本が中空に踊る。
大型獣には余裕があった。故障したアタックトルーパーより先に次の行動に移せるのは自明と思えた。
しかし、大型獣が助走距離を確保するために跳躍したことだけは失敗だった。
病院側の建物には――――。
「ナァーイス坊ちゃん!『片手の拍手じゃ音が出ない』とはよく言うよねえぇ!」弾かれたナイフを奇妙に伸びた半透明の触手が空中でつかんでいた。
ノーシェイプがそこには居た。
完全に無防備になったロバの頭がノーシェイプの目の前にあった。
鋭い切っ先でダガーナイフをロバの頭に突き刺す。
「け、計算通ーり」柊が呟いた。




