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インターミッション 後始末する人たちの憂いの、1

 戦場インフラ(清掃整備)を生業としている専門業者たちの誰もが、調布飛行場の凸凹になった滑走路や一面荒れ野と化している現状を眺めて大きな息を吐いていた。

 「これは――かかりますよ」そう洩らす言葉の意味は時間であるのか費用であるのか。基本原状復帰を都から依頼されている出入りの業者たちの間では、度重なるミンケイバーの行き過ぎた行動に「正直なところミンケイバーの後処理だけは受けたくない」という流れができつつあった。報酬は決して悪くないし支払だってきちんとなされるのだが、多くの時間がとられることを業者側が嫌ってのことである。

 「これは、うちのような中規模事業所じゃあ、さすがに無理ではないか」有野建設四代目社長、有野邦武(ありのくにたけ)は、待ちに待ったはずの順番がまさかのミンケイバー事案と知って泣き言をこぼした。かといって今回断ろうものなら次に受注待ちの順番が回ってくるのは何年先になるかわからない。自衛隊や日流研の事案のようにチョチョイと済むようなものであれば業者としても旨味は多く、なんなら片手間にだってできるものが多い。

 なぜよりにもよって自分の順番が「ミンケイバー」になってしまったのか。

 大きく肩を落とす有野社長に、この場に居合わせた他の業者の誰もかける言葉を持てないでいた。

 「どうしてここまで広範囲をボロボロにできるんだ………」何ヵ所にもわたってボコボコに深く抉られた滑走路。青々と茂っていたはずの周辺の広葉樹は見る影もなく焼け落ち、成木も無残にへし折られて横たわっている。超電撃メンコによる帯電が収まりきらず、チリチリと耳障りな音とオレンジの火花が視界の各所でチラつく。被害範囲を立ち入り禁止区域として虎テープで囲うだけで最悪一日仕事になりかねない。従業員の出入りが激しいこの業界においていったい何人の親方衆を手配すれば間に合うのか空計算をするだけで頭が痛くなる。最悪、日雇い募集を強化してざっとした見積もりを都に計上しなければならない。計上が遅れればそのぶん国からの金が下りてくるまでの時間を要することになる。

 どう考えてもリスクしかない。

 ほかに抱えた仕事だってある。最悪そちらを中断してこっちに人員を投入するべきか?いや、地元密着型を謳っている以上、それはそれとしてきちんと納期に間に合わせなければならない。

 最近では高報酬を掲げて求人を出してもまともに応募さえしてもらえないという現状だ。そりゃそうだ。誰だって異星人の襲撃は怖い。多少の危険手当などでは今の東京において誰も自分の命を天秤にかけてくれたりはしない。

 有野社長は自分の番が「ミンケイバーの後始末」に当たってしまった不幸を呪うしかなかった。

 いくら国が支払いを確約してくれるのだとしても限度ってものがある。普通に考えてこの現場をきちんと整備して報告するのには下手すれば何年かかかるかもしれない。それまでのいかなる支払いも完了報告が済むまでは有野建設の立て替え払いなのだ。


 これは、私の代で会社が潰れるかもしれないな――。


 見渡す限りの焼野原を、有野建設四代目社長有野邦武は茫然として眺めていた。ふと一人娘の顔を思い出す。地方局のアナウンサーになると言って出ていった娘の選択の方が、こうなってしまうと正しいもののように思えてくる。最近まったく音沙汰はないがはたして元気でいるのだろうか。

 生木が焦げた青くさい臭いと無理矢理燃やされた断末魔の黒煙が風に乗ってうら寂しく荒地を流れていった。遠目に今帰還の途につくミンケイバーの姿が見えた。

 ひとつ前の事案が担当であったなら良かったのに。


 じわりと涙が滲む。



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