ライトスタッフ・ミスキャスティング、の1
「結局、話は聞いてもらえなかったんですか?」
キャノントルーパーを駆り、部隊最後衛から砲撃を繰り返す久能京華1士は、やや呆れ顔で再び動き出した民間機を眺めた。
呆れているのは勿論、戦力外にしか見えないスライムにであったが、同時に女子一人言いくるめることができずに尻尾を巻いて隊列復帰した柊陸曹にも同様であった。
「いや、民間企業の戦闘参加はーー」
「法律で認められてる、でしょ?それくらい心得てます。私が言いたいのはあんなどう見ても役立たずを、何故説得出来なかったのか、ということ一点です」
「いや、だって。他人のカニの足を切るなとか、象でバッタを採るとか、全く訳のわからんことを言うんだぜ?」
「あー。もしやもしやですがパイロットはタイのお国の人なのかもしれませんねぇ」通信に割り込んだのは田辺保2士だ。
自衛隊機三体の登場で形勢が変わったのを察したか、先刻からロバ型大型獣は突撃をするのをやめ、ジリジリとではあったが後退していた。銃線を器用に避けつつ今はビルの影に身を潜め、顔だけをわずかにのぞかせている。
「これは一斉に追い討ちですかね?」田辺2士。
「窮鼠猫を噛む、の言もある。ここは慎重に行こう」
「そうやって陸曹はいっつも逃げられてますよねえ」久能2士の手厳しい言葉が飛ぶ。
彼ら自衛隊の三機は色調こそ酷似しているが、よく見るとそれぞれ武装が異なっている。肩に長い砲身を付けた久能機、肩や腕回りにグレネードを仕込んだ田辺機、その二機より細身で小回りが効き、近接戦に特化した柊機。
柊陸曹が巨大獣の追い討ちを躊躇うのには理由がある。自衛隊のブレーンコンピューターが隊員にトルーパーを配備する際それぞれの適性を見て割り振るのだが、近接戦の苦手な柊にどうしてか近接専用のアタックトルーパーが充てられたのだ。
自慢だが、柊陸曹は近接戦、殊更格闘戦が大の苦手だ。
今追い討ちするとなったら、ビル影に隠れた巨大獣を二人がかりで牽制銃撃している合間を縫って、どうしたって自分が接近戦でトドメを刺しに行く戦略になるだろう。
これまで実に三度、このチームトルーパーズは後詰めに失敗している。その度に隊のブレーンコンピューターに機体変更の申請をしたが、いずれも不受理になっていた。
「また逃がす気ですか?」
「モタモタしてると弾倉が空になりますえ?」
部下に煽られる切なさでいたたまれない気持ちになる。
「わかった!わかりました!突撃すればいいんだろう!やってやるよ!」
およそ職業軍人らしからぬ言葉を吐いて、柊陸曹はアタックトルーパーの装備武器、ダガーナイフを両腰から抜き放った。




