巨人の再来の、17
「足から手が生えたッ!」右京がモニターを見て叫んだ。ミンケイバーの足の先から紛れもなく巨大な拳が飛び出している。神々しい金色の霧を――いや、これははたして霧なのだろうか。直接触れているわけでもないのにこのコクピットにまで力が伝わってくる。
「あれ、多分――!」左京が言葉を呑んだ。
「――そうか!アラタだ、あれ!光の巨人に――なったんだ!」
二人はロウが昨晩話してくれたいきさつを思い返して、ほとんど同時にそのことに気づいた。
『じゃあ、アラタ(ロウ君)、無事なんだ』言葉も重なる。
ロウは自分でもなんて器用なんだと思える格好でケイバ―足の先端にいた。
左右の腕だけを巨人化させ、落下する自分の身体を足の隙間に詰まらせることで、ロウはそれ以上の滑落をどうにか耐えることができていた。
足元から強い風が吹き込んできてロウの顔を強く煽りたてた。ミンケイバーが上昇した後再び下降したのだとすぐに理解した。このままキックを繰り出すつもりなのかもしれない。風の入ってくる方向に光があって隙間から飛行場の滑走路が見えた。距離が近づいていく。
刹那、カチリ、と金属音がして、ロウは音のした方に目をやった。巨人化させた左手を置いた場所。ひやりと冷たい感触がある。怜悧に研ぎ澄まされた斜めの溝。それがドリルだとわかると瞬時に血の気が引いた。
下降しながらこのドリルを足から出して敵にぶつけるつもりか。今の金属音はドリル作動の予備動作なのかもしれない。
「――冗談じゃない!」
このままだとタガメより先に自分がドリルの餌になってしまう。しかしさしあたってドリルを止める手段も方法も思いつかない。ただこのままこの隙間につかまっていたら確実に刻まれてしまうだろう。
意を決して左腕の巨人化を解く。閊えがなくなってロウの身体が再び落下していく。右腕の巨人化を止めなかったのは万が一のことを考えたからだ。落下の最中夢中で巨人化することができた。しかし必死だったことで出来た芸当が二度出来る可能性はない。ひっこめたらもう次はないかもしれない。片手だけでも巨人化していれば、最悪このまま地面に落ちたとしてもそれをクッション代わりにすることもできる――はずだ。
しかし、結果として――そうはならなかった。ミンケイバーの落下が思ったよりも早く、そのために鳳が足の先にドリルを出すタイミングを失ってしまったからだ。
このままじゃただぶつかるだけじゃないか!
ロウは心の中で叫んだ。
反射的に、手が出ていた。
巨人化した右手が降下中のミンケイバーの左足からにゅうっと伸びて、握りこんだ拳でもって迎撃態勢をとってみせたタガメの頭部を殴りつけた。不意を突く格好になったのは真に偶然だったが、拳はタガメの行動が完結するより少し早く届いていた。
殴りつけたミンケイバーも態勢を崩したまま滑走路に派手に背中から落ちたものの、巨人化したロウの右拳が緩衝して見た目ほどの損壊はない。
倒れ込んだミンケイバー右足から不格好に大きい右腕を引きずる形でロウが姿を現わす。
「今度はこっちの番だ」そう言わんばかりにロウの身体が光る。右腕だけではない。みるみる大きくなっていく姿はかつて吉祥寺に降臨したあれだ。
「光の巨人――やはりお前が、そうだったんだな!」
声は、タガメからだった。聞き覚えのある声に、光の巨人が動きを、止めた。




