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巨人の再来の、16

 「――リーダー!ロウがっ落ちた!」

 右京と左京の言葉がインカムごしに鳳の耳に轟いた。あまりの声量に鳳は反射的にインカムを手で弾いていたほどだ。

 「なんのことだ!ロウって誰のことだ!?」鳳はまだロウの過去のいきさつを知らない。双子の言葉に耳を傾ける前に手にしていたレバーを大きく引いている。ミンケイバーを上昇させて体当たりをすべく機体をより高い位置へとせりあげていた。

 「――馬鹿なのッ!上に行ったらロウが死んじゃうじゃない!」

 「アホリーダー!いっぺん死ねッ!」

 右京と左京、双子の放った必死の言葉も虚しく、ミンケイバーは巨大な身体を不自然に震わせながらさらに高みへと浮かぶ。空中でどうにか制止したのは双子の言葉にかろうじて鳳が自制できたからだった。

 「――ロウって、誰のことなんだ」

 「――ロウは、ロウよ!アホリーダー!」さっきまでしっかり「アラタ」と呼んでいたはずの右京が涙ながらに訴えた。自分を助けようとさえしなければアラタ――いや、ロウは30m以上もあるケイバ―足の隙間に広がる――それこそ深淵なる奈落に落ちなくてすんだはずなのだ。もはや覗きこんだところでロウの姿は見えない。ミンケイバーの合身不具合による軋みの音が邪魔をして断末魔の声が聞こえなかったことがまるで救いであるかのように思えてならない。

 「ロぉ――ぅウぉ――――!」

 奈落に向かって発した声がサーメット装甲の内壁に反射して歪む。

 また強い振動が起こった。

 足元から強い振動が伝ってきて右京がたまらず切れたシートベルトの端っこを右手でつかみ、左手を左京の両腕に抱えられる。

 「ありがと、左京」

 「でも、ロウ君が――」

 振動は続いていた。

 両足担当の太平洋が狼狽えた声を上げている。それはインカムごしにも拾えないほど早口でか細いものだった。

 「挙動が――」

 ミンケイバーの搭乗者の皆がかろうじて聞き取れたのはその言葉だけだった。言葉が終わるやいなや、ミンケイバーは制御を失って空中から一気に下降していく。急激にかかったGに、メンバー全員が操縦桿あるいは手近なものを必死にかき抱いた。それはミンケイバーの(一応)メインコントロール権を持つ鳳も、であった。

 「俺はまだ――命令してない――ぜ!?」

 地上から180m上空。誰もが理解できない異常事態が起こっていた。確定しているのはその高度から今まさにミンケイバーは加速をつけて急降下しているというまごうことなき現実だけだ。

 まるで突然、足に大きな重しをはめられたようなそんな感覚だ。

 大地や太平、それに鳳がそれぞれのパート下にあるブースターに対して必死に逆噴射をかけてなお、ミンケイバーの巨体は地上へと加速していく。

 かろうじて幸いといえることがあるとするなら、下降先にきっちりタガメの姿を捉えていたことだろうか。偶然なのか――それはもはや知る由はない。鳳の憎めないところはこれが自分にあたえられた天啓に違いないと誤解してその現実を都合のいいように受け止めるだけの度量を有していることだ。

 そのうえで彼は高らかに叫ぶ!

 「喰らえ悪党!これが必殺の――ッ!ミンケイィ――!ふぁあああいなあぁぁるッ!キックだぁーッ!」

 『うおぉおぉぉぉぉおぉぉぉ――――――――――ッ!』

 鳳の掛け声に唱和して他のメンバーもまた、叫ぶ!

 彼らの強みは勢いにまかせて全てのことがらを常に前向きに捉えることができるというところだ。

 「なんか、やったらできた」と平気で嘯く彼らのいいところであり、また悪いところでもある。。

 現実はそんなに自分たちに都合よくは出来ていないのだ。


 案の定、彼らの予測外の事象が起こった。


 ミンケイバーの足の先、タガメの頭部を殴りつけたのは、ミンケイバーのキックなどではなく金色の光を発したどう見ても拳であった。それもひときわでかい、人の拳だ。

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