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巨人再来の、13

 「うわぁあああぁぁああ!」

 悲鳴――というより絶叫しているのはロウだ。シートベルトで固定されているとはいえ、本来一人乗りのところに三人を詰め込んでいるのだ。いつもより窮屈なコクピットもそうだが、ヤックとの戦闘で欠損している運転席側の扉側から見える奈落から吹き上がってくる風が否応なしに恐怖を煽ってくる。

 扉がないことで普段は遮断されている音がダイレクトに届く。

 「――落ちるッ!」

 黄色い半ヘルメットの隙間から汗が滴る。額から頬に流れる間に一気に温度が下がり、次の瞬間飛び散る。汗の粒がケイバー足の空洞部分に落ち、視界から消えていく。

 ミンケイバーが何かしら動くたびにシートベルトが嫌な音を立てて軋む。ロウの左手側に詰めて左京に挟まれた格好の右京も不安が勝っているのか先ほどから下を向いたまま言葉を発していない。ロウの服の脇腹あたりに力が入っているから意識は多分にまだあるのだろう。

 「右京。君のとこだけはシートベルトがない。できるだけ左京側に体を預けるんだ」

 万が一にも彼女をこの奈落に落とすわけにはいかない。

 わかった、と頷くかわりに右京がロウの服の裾をつかむ力を強めた。


 「風林ッ!火ざぁぁァぁァああぁんッ!」

 横におおきく薙いだ木剣が風を巻いて唸りをあげた。

 タガメが素早く後ろに下がる。本来であるなら踏み込んで縦一閃に剣を振りおろすところだが、それができない。もはやケイバ―シューズを装着していないミンケイバーは器用に武器を振り回せるだけの案山子と化していた。 

 「いいかげんに当てろ馬鹿ッ!」

 「こちとらこれでも当てにいってるつもりなんだ。少し黙ってろ!」

 大地の叱咤に、鳳の声が知れず怒号まじりに爆ぜる。

 完全に間合いを見切られている。さっきから小さく当てては距離をとるヒット&アウェイを繰り返されて、ミンケイバー搭乗の誰もがフラストレーションの度合いを上げていた。

 「こうなったらビームだビーム!あれなら少しくらい的がずれようが関係ない。地面ごと焼き尽くせ!」

 「大地クン、あんなの地上で撃ったらそれこそ街ごと消えちゃうでしょうが!」

 普段は声をひそめがちの左京でさえ、興奮が先に立ってあきらかに言葉尻が乱暴になっている。

 ロウは操縦桿にしがみつくのに精いっぱいで言葉こそ発していなかったが、それでも太陽光変換ビームの発射だけは現実的ではないことと理解していた。

 「撃つまで待っててもらえるわけないだろうが!アレを発射するまでにどんだけチャージ時間がかかると思ってんだ」鳳もロウと同意見のようだ。

 「じゃあどうすんだよ!」

 「一回飛べ!」

 「は!?」

 「いいから!一回大きくジャンプしろ!」

 鳳の言葉で太平がドリル化した足をひっこめて、かわりにジェット噴射を焚いて飛び上がろうとする。が、思ったほど速くはない。煙が両足からもくもくとあがる割に機体の上昇はゆっくりだ。その様子は種子島からかつて宇宙へと発射されたロケットの映像を見せられているかのようだ。

 「――もっと盛大に()()()よ!」

 「これでも目一杯なんですよ!」と太平。

 それまでと変わった攻撃パターンを警戒したのか、タガメが安全距離を広げた。

 驚くほどゆっくりとではあったが、およそ60mの巨体が再び空中に浮かびあがる。

 「――で、リーダー。ここからどうすんだ」

 「や?とりあえず逃げたかっただけだ。見たところヤツは空中への攻撃方法を持ってはいないようだからな」

 「考えなしかよ!」

 「仕切り直しなら――とりあえずはいいんでしょうが」大地の毒づいた言葉にロウが言葉を挟んだ。

 と、同時にミンケイバーの機体がガクンと揺れる。

 「問題は、この戦法がそう長くは続けられないということです」

 空中でどうにか姿勢を持ち直したものの、ミンケイバーの挙動はあきらかにおかしかった。

 それもそのはず。

 ロウの目の前にあるコンパネが橙色の点滅を繰り返している。ミンケイバー全体のエネルギーゲージが極端に目減りしていることを、中枢を司るミンケイボディーにだけついているゲージが示していた。今の機体の揺れは空中での姿勢維持が困難になったブースターのひとつが稼働不能に陥ったからだ。

 パネルの中で稼働を止めたブースターが赤く表示されている。

 「あと、もって十分。このまま飛び続けているなら――多分その半分――五分程度しかもちません!」

 ミンケイバーに、かつてないピンチが訪れていた。

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