巨人再来の、12
ケイバー足のドリルを引っ込めては出しという作業を繰り返して、ようやく動き出したミンケイバー。しかしその動きは極めてぎこちなく緩慢で精彩を欠いたものだった。傍目から見てもようやっと動いているといった体だ。
ミンケイバーは調布飛行場の滑走路のまだ比較的損壊の少ない平地に佇んでいた。両の手には屋久杉を削って作ったといういわくつきの木剣『風林火山』を携え、上段に構えてタガメを睥睨する。
鳳は今回の切り結びを、あえて『受け』の姿勢で臨むことに決めていた。踏み込みや身を躱しての攻撃が難しいのだから、ミンケイバーのその戦法はあながち間違いとは言えない。しかし射程距離の長い鎌を振り回すタガメに対して、果たしてその戦法が通じるのかというと確証は持てずにいた。
「やってやるぜ!」他方、戦いに意気込む鳳の方には迷いはなかった。むしろ迷いがなさ過ぎるのが心配になるほどに、だ。余談ではあるが随分昔に放映されたという合体ロボットの主人公に、これと似たセリフを放つ猪突猛進なキャラクターがいた気がする。
「このロボットに乗るとどうしてか人格が変わる気がするのよね」と、いつであったか左京がこぼしたことがあった。かくいうロウもなんとなく自分も、と思い当たる節がなかったわけではない。件のロボットアニメの中の機体に搭載されているような、精神に働きかけるなんらかのシステムがコクピットに注入されてでもいるのだろうか。
「やっちまえリーダー!」
「なんならこっちから仕掛けていけ」
なんとも手前勝手な言葉が飛び交う。
しかしこちらの思惑とは異なり、タガメの動きは慎重であった。じりじりとにじるように距離を詰めてくる。その動きは先刻特攻のような体当たりを敢行してきた相手と同一とはすぐに思えないほどだ。
緊張で――周囲がひりつく。溜まった唾を飲み込むことさえためらってしまいそうな張り詰めた空気。
タガメはこちらの攻撃可能な距離が狭いことをちゃんと心得ているようだった。
間を置いてからのファーストアタック。目にも止まらない速度で、斜めにタガメの鎌が振られた。風林火山を振り下ろせば当たる間合いではあったが、振り下ろした時にはタガメはすでに適切に避けられる距離に身を置いていた。たちが悪いのは相手の機動性の高さだけではない。タガメの振るう鎌の命中位置がミンケイバーの腹部から足にかけてだということだ。
各々の身長差と重量差が災いして今の現状になっている。
一発当てることができればタガメを仕留める一撃になりえるだろう。しかしそれは飽くまでも当たればの話だ。
こちらの振り下ろすモーションを完全に見切られている。風林火山を振り切ったときの相手の位置はすでに射程圏外にあるという事実がそれを如実に物語っていた。
タガメはそこそこの射程の長さと機体の敏捷性、さらに鋭く素早い攻撃速度でこちらの当てやすい箇所を的確に狙って攻撃を繰り出してきている。
剣道の試合をしているわけではないのだ。実際、足が――狙われていた。
実際戦ってみてわかることがある。自分の半分しかない身長の相手に攻撃を当てることの難しさ。まして相手が素早い動きをするならなおのことだ。
「攻撃が――こうも当たらないのか!」
めったにしない舌打ちを、鳳がしてみせた。ミンケイバーが靴を履いていたならこんな状況に追い込まれることはなかったことを考えると余計に腹立たしいものがある。
「せめて片っ方の靴でも履けたら!」
右京が呻くが、それは適わない話でしかない。