巨人再来の、11
ロウは太平の言葉を疑った。地表が深々と陥没するほどの重爆撃だったはずだ。これがたとえヤックであっても無事であるはずはない。見間違いではないかと目を凝らすが、白煙の立ち上る爆心点で動いているのはどう見ても『タガメ』だ。
「ヤックより装甲が厚いっていうことか」ロウは呻いた。正直『タガメ』がヤックよりも強敵には値しないと踏んでいただけに、倒せていなかったという事実からくる落胆は少なくなかった。
さらにこうなると状況もまた芳しくない。
爆撃を耐えきったタガメは、さすがに当初自身の状況把握に時間を割いたものの、活動可能と判断がついてからの行動は迅速だった。視界にこちらの姿を認めるや、まっすぐこちらへと突進してきた。
「よし、応戦だ、みんな行くぞ!」リーダー鳳の号令一下戦闘準備を整える。
「まずは敵を右にいなして剣で応戦するぞ、大地!『風林火山』だ!」
「――待ってよ!簡単にいなすっていうけど、誰がやるのそれ?」右京が間髪入れずリーダーに向けた声を上げる。
「そりゃあ双子、君らにだ!」
「今ミンケイバーは靴はいてないんだってば、忘れたの!?」
「――あ!」
「あ、じゃない。しっかりしてよ、もう!」
右京の言葉が完全に終わらないタイミングで強烈な衝撃がミンケイバーを襲う。爆心地から一足飛びに向かってきたタガメの体当たりだ。地面深くドリルを突き刺したミンケイバーはその場でまさに田んぼの案山子のように突っ立ってしまっていた。
さすがにあの爆撃と超電撃メンコを喰らってなお稼働できる敵だ。タフなタガメの攻撃はヤック戦で消耗しきったロウたちのミンケイボディーの装甲に深刻なダメージを与えてきた。
「どうしたって体の中央は狙われる宿命だよな」
ミシッと不穏な音がした。合身して大地のイカロスと装甲を共有してはいるものの、さすがにそこなわれてしまった車輛の両扉まではカバーできていない。サーメット装甲がパラパラと崩れていく中、同じミンケイボディーに搭乗している双子の顔もさすがに蒼ざめている。崩れた装甲が落ちていく空間は何十メートルも下だ。ミンケイバーの中にあっては音が反響したりはしない。動力の稼働音と鳴りやまない振動が常時周囲を覆っていて余計な音が耳にまで届かないのだ。普段コクピットとして遮蔽されている場所は今回に限って両サイドが奈落という実に恐怖の対象になっていた。
「これまさか落ちたりなんかしないよね?」と言う左京に、ロウは「とりあえずシートベルトはしといて」と告げた。
「真ん中のあたしはどうすりゃいいんだよ」普段気丈な右京の声も震えている。
「足を突っ張って左京にしがみついていてくれ」
ロウと左京のシートベルトをいくら伸ばしても中央に座した右京の位置ではどちらのシートベルトも効果をもたらさない。しかし裏を返せば固定された二人に挟まれている右京は前に飛び出さない限り極めて安全な位置にいるとも言えた。
「わかった――けどさ」
右京の言葉は途中で切れた。
なにはともあれ、ミンケイバーが動き出したのだ。