巨人再来の、10
「リーダー!どうする?このまま持久戦を決め込むつもりなのか?」と大地。
合身したことで通信の齟齬がなくなり、クリアな音声がミンケイバー全体に伝わってきていた。体長実に60m弱の巨大ロボと化したミンケイバーの機体はまだ天空高くに浮遊したままだ。
「――しまった!」鳳の鋭い声に搭乗者全員に緊張が奔る。
「どうした!?」大地がすかさず反応した。いささか神経質になっているようで、語気が強い。
「『笹もってこい』を言うの忘れてた」
神宮寺博士の決めた合身時の決め台詞だ。
「どうううでもいいでしょ今、そんなこと!」
「馬鹿をいえ!外から帰ってうがいをしないまま食卓に着くぐらい気持ち悪いことだぞ!?」
「それこそ馬鹿じゃないの!?」
右京と鳳が些末なことについて言い合いを繰り広げているのを聞いて、ロウは自分の中の昂りが少しだけ落ち着いていることに気づく。感覚は鋭いままであったものの、妙な安心感が、ややもすると引き剥がされそうになる精神を支えている。一人でやらなくてすむのだという気持ちが余裕を生んでいるのかもしれない。そう考えると二人の妙な掛け合いも悪くない。
「あらためていくぜ!合身完了!ミンケイバァアァぁぁあセブンんンンーワイィィィぃぃッ!さぁさもってこぉおおぉいッ!」
「呆れるわ。本当にまたやるかなぁ~」
鳳が鼻息荒くやり遂げた感を出した。呆れを隠すことなく軽く首を回す右京。ミンケイバーの背後にまたどこから出たのか謎の稲光が顕現し、ガガァッと盛大に音が散った。
「まあ、これがあると『やるぞ』という感じは出ますよね」太平がフォローらしき言葉を口にした。
「だな」と大地。「ですね」とロウも頷く。
「でも結局のところ何も決まってはいないんだけれどね」左京が短い息を吐いた。
「いや、決めたぞ。上空から飛び道具を斉射しつつ一気に下降して、あのタガメ野郎をぶっ叩く」
「おお。リーダーにしてはまともっぽい戦略」
「伊達に大量破壊兵器の二つ名は持っていないってことをわからせてやる!」
「施設大事に」
「わかってる――!」
本当のところどこまでわかっているのかはわからないが、とりあえず鳳は明確に返事はしてみせた。ミンケイバーを急上昇させてからの急反転。視界にはヤックの二番手、命名『タガメ』がいる。
「行くぞミンケイフルパワー!」
鳳が叫び、大地、太平、ロウがめいめいに武器名を叫びながら飛び道具を放つ。
ミンケイバーが両手を大きく開いて振ると機体のあちこちからミサイルやらマシンガンが顔を出し、珍しく晴れた空を完全に煙で覆いつくす勢いで連射を始めた。弾丸の雨が地表を斜めに貫き、ミサイルがここぞとばかりに飛行場全体を火の海に染めていく。中には別に合身していなくても出せそうな武器も多くあって、ロウは博士の妙なこだわりがなければもっと戦況は楽だったのではないかと思った。
ひとしきり銃撃した後で大地が「超電撃ッ!メンコおぉォォォォぉ!」と吼え、空中にバチバチッと火花を放つエネルギー体を形成した。右手人差し指と中指で挟んだ煌めく電撃を纏ったそれを、煙で覆われまったく視界のきかない地面にむかって叩きつける。
「くたばれゴキブリ野郎――――!」
煙の中に金色をした波状の光が奔った。光は完全に見えない煙の中でも確実に地面を這っていく。鞭で思いっきりひっぱたいたときのような短くも甲高い音が眼下で鳴り響いた。
「ドリぃィィィるッ!足ぃッ!」
煙がもうもうと立ち込める地面にむかってミンケイバーは両足を突き刺した。着地地点になにかの異物を踏みつけたといった手ごたえこそなかったが、足場の地面がかなり乱雑に破壊されているのは着地の際の衝撃と姿勢のぐらつきでわかった。やがて煙が風によって少しずつ流されていくと、ミンケイバーの一連の攻撃がもたらす破壊力の凄まじさをまざまざと見ることになった。
空港の滑走路はその大半が大きなクレーター状の穴と化しており、ぶすぶすと焦げつくアスファルトからはタールの溶け出す嫌な臭いが漂っている。景観の一部として緑化されていたはずの木々はそのほとんどが葉を散らしてしまっていて、首のない骨格標本のように見栄え悪く並んでいた。
「やりすぎだろ、どうみても……」大地が自分の攻撃でそうしたにもかかわらず事の悲惨さを誰かになすりつけるような無責任な言葉を漏らした。やってしまってから後悔の念を滲ませるなら最初から少し加減すればいいのに、なぜか勢いに乗ったミンケイバーの面々はそのあたりの勘どころについて誰一人抑えがきかないといった一面がある。
「これはまた賠償金が高くつきそうですな」太平がため息をつく。
「大地。最後の超電撃メンコ、あれ必要だったか?」鳳がやれやれといった細い声を出した。
「それを言ったらアラタだって弾使い過ぎなくらい撃ってたろう?」
「いやあリーダーがミンケイフルパワーって言ってましたし――」
そこで声が途切れた。その場に居合わせた誰もが気がついたのだ。
今回の攻撃でもっとも陥没した場所で今、なにかが動いた。
「これはまたまた賠償金が高くなりそうな感じですな」太平の声に緊張が奔る。
瓦礫を押しのけながらゆっくりと姿を見せたのは――『タガメ』だ。