巨人再びの、9
「ケイバぁーッ!カッタァァァァぁー!」
声を大きくして気合をいくら滲ませても、機械的に射出されるだけの武器性能が変化するわけではない。それは重々わかっていても、何かしらの奇跡を信じなければこの不毛なせめぎあいをこれ以上継続することは困難な気がした。
案の定、ケイバーカッターは敵の懐に届くよりずっと前の段階で無残に撃ち落されてしまい、ケイバージェットの鳳はまた攻撃姿勢を整えるために旋回を余儀なくされていた。
「このタガメ野郎!」
自分でも言い得て妙だと思うネーミングに、内心ほくそ笑む。
「いや、駄目だ駄目だ」律する。
一向に状況は改善していない。空と陸。互いに戦うフィールドが違っているためにもの別れが続いているだけで、単なる消耗戦に突入しているに過ぎない。
しかも長引けば長引いただけこちらの不利はあきらかだ。事実、効果が期待できそうな武器はすでに弾切れもしくはチャージ不足に陥っていた。ケイバージェット自体の燃料もゲージ半分を割っている。
「リーダー!」
インカムに不意に飛び込んできた通信は左京だ。視界の先に頭部と靴のない巨大ロボの姿が飛び込んでくる。根拠のない希望が鳳の身体の下の方から湧きあがるのを感じた。
「よく来た!合身シークエンス!ミンケイバーYッ!」
タガメの鎌の切っ先が届かない上空で、いつもどこから発生するのかわからない謎の稲光を背景にミンケイジェットが変形しながらロボットの頭部を形作る。イカロスと接合した頭部がぐるりと反転し、怒れる武者を模した顔が顕れた。
「これぞ奇跡の究極合身!ミンッ!ケイバぁぁァぁッ!セブンンンンッ!ワイィィィッ!」
ガガァっと背景に稲光が見えるほどに輝きを放つ!
轟音が、惜しげもなく鳴り響く!
「おーおー!リーダー燃えてんなぁ」
「それだけフラストレーション高かったってことでしょ?」
「基本、単体武器効かなかったですもんね」
「そういえば毎度合身の度に叫ぶけど、まともに聞いてくれてる人いるんでしょうか?」
「そういうことじゃ、きっとないんだよ」ロウが皆の言葉をまとめるように呟いた。
目の前に、どうしてか戦わなければならない相手がいる。
いつだって死ぬかもしれない危険に身を晒している実感を都度感じられるこの時だからこそ、叫ぶのだ。
「僕は、こんなことも、わかってなかったんだな」
いつも冷たいミンケイボディーのコクピットは、今日に限って右京と左京の双子の存在によって温かな温度を保っていた。人肌のぬくもりがこれまで感じてこなかった『生』について、ロウに問いかけてきていた。
無人円盤は機械だ。『殺す』という感覚ではなく『壊す』という意識でいけた。
しかしヤックが有人であるとわかった以上、今度は『壊す』という感覚ではなくなっていく。
目の前の――リーダーが、タガメと命名した今の敵が、ヤック同様有人であったなら。
「『殺す』――って、ことになるんだよね」
ロウは、自分の体温が急に下がったのを感じた。雰囲気が変わったのを察したのか、となりに並ぶ双子の視線が一斉にこっちに向く。