巨人再来の、7
「アラタてめえ!日和ってんじゃねえ!」右京の言葉にハッと意識を戻す。
ヤックの二号機とも見える新たな敵との間隔はいつしか100mを切っていた。
息をつく間もなく敵の攻撃範囲に入りつつある。至近距離と言ってもいい。
ハンドルを左に切って敵を右手に見ながら距離をとる。
「――逆だろ!ぶつかれ!」
「右京ちゃん馬鹿なのッ!?」
「さっきみたいに轢き逃げろって言ってんだよ、あたしはさ!」
「斬られちゃうって!」
「やってみなけりゃわっかんねえだろうが!」
確かに進路を変えずぶつかっていくこともひとつの方法ではあった。実際、ミンケイボディーの進入角度からいけば敵の左斜め後方から突っ込むことが可能ではあった。
しかし機械的に武器を振り回している今の敵の動きを考えれば、それが得策であるとはロウにも思えなかった。
「間合いに入った途端にあのおっきな鎌でこっちがやられちゃうかもじゃない!」左京がもう一度噛みくだいて言い直す。左京の意見がロウとは合致した。敵の攻撃がもしオートメーションであったなら、それまで他の空中にいるメンバーに向けられていた攻撃がいっきにこちらに転嫁される可能性があった。そして万一相手がこちら側に徹底した攻撃を仕掛けてきたとすれば、機動性をほぼほぼ失ったミンケイボディーに対処できる術はない。
「それは――わかるけどさ!」
呻く右京が本当に理解してくれたかどうかはわからない。ただ、ロウ自身の判断で左へ舵を切って、相手に突撃をしなかったことは正解であると思えた。
それにしても、一瞬のこととはいえ意識がうろんになったのはやばかった。
右京の叱咤がなければ、なにかに意識が完全にもっていかれるところだった。しかも気がかりなことにその原因がまだ体の中にくすぶっている。感覚が一段研ぎ澄まされた感じになっているのはそれのせいなのかもしれない。
「先に大地クンと合身してくれってリーダーが言ってる!」
左京が自分のインカムに届いた指令をそのまま運転席のロウに伝えてきた。
「あたしたちから見て――左前方斜め上――!」今度は右京が叫んだ。彼女の指先が空の一点を指し示している。
灰色と白い雲が重なる継ぎ目に大地の駆るケイバ―アーム――イカロスの姿が見えた。
「大平さんはどこだ?――二人とも、探してくれ!」
大地と合身した後は大平のケイバ―足と繋がる必要があった。ロウは不規則に取られるハンドルと、いつ止まるかしれないエンジンの面倒を見るだけで手一杯になっていた。周囲にまで気をやれる余裕は正直いって、ない。
「あれ、大平さんじゃない?」
左京が叫んだ視線の先に、右脚の真ん中あたりから煙を昇らせたケイバー足の姿があった。
「とっちゃん、やられてんじゃん。煙出てる!」
サーメット装甲を破るだけの攻撃力を少なくとも目の前の敵は持っているということか。だとすればなおさらダルマのミンケイボディーなんかじゃ歯が立つはずもない。
「左京!大地君に連絡とって。合身スタンバイ!」
大平も気がかりではあるが、まずは近い位置のケイバーアームと合流すべきだ。ロウはアクセルを深く、踏み込んだ。




