巨人再来の、5
鳳が搭乗するケイバ―ジェットの後に続いて大地のイカロス(ケイバ―アーム)と大平のケイバ―足がこちらの上空を飛び越えていった。単に合流するための速度にしてはあまりに速く、飛行する姿からはただならぬ緊張感を孕んでいるように見えた。
「――なんだ!?」
異常に気づいたロウに緊張が奔る。右京、左京も上空をゆく三機の軌跡を目で追った。
「行きすぎちゃったけど?」右京がキョトンとした表情を見せる。
「どういうこと?」左京も狐につままれたような顔をして目を見開いている。
ごおっ――という強い風がこちらに向かって吹いてきた。
火薬の匂いが混じった風だ。
ケイバ―ジェットの放ったバルカン砲とイカロスが発射したミサイルの余韻が空気中に漂っている。
「ヤックが――まだ動いてるっていうのか!?」ロウが叫ぶ。
インカムにザザっと乱れた音とともに鳳の声が入ってきた。
「敵と交戦に入った。アラタと双子は安全な場所まで避難しろ!繰り返す。敵との交戦に入った。三人はすぐにその場を離れるんだ」
「こちら左京。敵はヤックですか?」
「――もう一機別にいるんだよ。ヤックは現状沈黙している!」大地の声がインカムに届く。
見回してみるものの、この場所からは視認できない。滑走路まで戻れば視界もひらけるのだろうが、しばらくの間放置された桜の木々や丈の長い草がそれを邪魔していた。
さっきまでそんなやつはいなかった。ヤックでなければ鳳輦かとも考えたが空にそんな影は見えない。味方機が攻撃したのが地表であることを考えれば敵は地上にいることになる。
「ヤックと同等かそれ以上だ!」大平の声が聞こえる。
ミンケイボディーの方へ駆け出すロウに、双子がかわるがわる「よしなよ!」と声をかけてくる。
「さっきまともに走れないって言ってたじゃん」
「でもミンケイボディーがあれば合身はできる」
「靴なしで合身するつもり!?」
確かに、靴なしでも合身はできるし、実際、過去にはそうやって戦った経緯もある。しかしそれも胴体があったればこそだ。頭と腕、それに足だけではどうやってもつながらないのが合体ロボだ。胴体がなければ合身という名の合体さえままならない。さすがのミンケイバーも手と足を直接つなぐ合体は想定されていなかった。
「胴体さえくっつけば、使える武器だって増えるんだ」ロウはミンケイボディーにとりついた。
昇降用の梯子に手をかけて急いで登りドアハンドルに手をかけ扉を開ける。
途端にグラリとバランスが崩れた。
もう限界であったのだろう、ロウが手をかけた運転席のドアの接合部分がはずれ、運転席側のドアがそっくりそのまま大きな音を立てて地面に落下した。落下するドアハンドルから慌てて手を離す。
その後どうにかコクピットに乗り込みエンジンをかけようとするが『認証ができません』と冷めた声がするばかりで運転席のコンソールは光りもしない。
「――なんだよ!」
一度エンジンを切ったことでミンケイボディーにもどこか不具合が起きてしまっていた。
「――嘘だろ!?かかれッ!かかれよッ!」
あらゆるボタン、レバーを操作するが、まったく変化の兆しはない。斜め45度の角度でコンソールパネルを思いっきりひっぱたいてみるが、叩いた手が痛むばかりで状況は何ひとつ好転しなかった。
「――どいてッ!」助手席側から乗り込んできた右京が横からロウを押しのけて入ってきた。
「確かどこかに手動でエンジンを動かすトコがあったはず――!」
足元、背もたれ、シートの隙間。次々と手を突っ込んでいくがこれといったものは見つからない。インカムごしになにかの衝撃音と「やられた!不時着する!」という大平の声が届く。
「おっさん!やられてる場合じゃないじゃん!」右京が金切声を上げた。
「ああもう!」と苛立ちを見せる右京のとなりに今度は左京が乗り込んできた。
「ミンケイボディーの緊急スイッチはこっち!」細い腕を懸命に伸ばして右京とロウのちょうど中間、エアコンの下に手を伸ばす。
ゴゴン!とひどく雑な音と縦揺れがしたかと思うと、さっきまでうんともすんとも言わなかったミンケイボディーが息を吹き返す。
『緊急再起動、開始しました』
やはり抑揚の薄い声がコクピットに響いた。




