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巨人再来の、2

 ヤックはこちらが機体を後退させたことでほんの一瞬構えを緩めた。

 しかし距離をとったのが自分に向かって突進するためなのだとわかった途端、構えを再び戦闘に耐えうる姿勢へと戻していた。

 ロウはヤックの中に何者かが居て漆黒の機体を操縦しているのだろうとこれまで幾度か当て推量をしていた。だが今回のことで、それが単なる推量などではないと確信した。

 もしヤックが機械であるなら、自分がいくら損傷していようが攻撃の手を止めることはない。プログラムに従ってあらかじめ予定された行動をとるだけだ。仮に優秀で自己判断ができる機械であったとしても()()動きはしない。

 ――ロウにだけ、わかったことなのかもしれない。

 一連の動きの中で、ヤックは間違いなく安堵したのだ、と。

 だが、これがもうロウの予測のさらに上を行くプログラムであったというのならどうしようもない。ロウの感じた安堵なんてものが単なる錯覚である可能性も否定はできないからだ。

 多分、間違いではない。

 ロウの感覚は先ほどから鋭く、鋭くなってきていた。興奮がおさまることはなく気持ちは昂ったままを維持していたが、冷静な頭はヤックは人によって動かされているマシンだと断じていた。ヤックから流れる黒い煙の一方が外から操縦席に流れていて、それが()()()()()()()ロウの身体に何らかの作用を及ぼしているのかもしれなかった。

 それとはまた別に、ロウの無謀とも思える特攻劇の裏には、最早妄信としかいいようのない信念が籠っていた。

 当たる。いや、当てる。

 限界まで加速した二十メートルの超金属の塊は完全な凶器だ。

 「矛が本気であったなら――貫くッ!」

 神宮寺が言い放った讒言だ。

 しかしその根拠の薄い讒言はロウの行動にこれ以上ありえない力強さを与えていた。

 純粋で打算のない行動は、時に妙策をも打破する。

 ヤックはロウの敢行した特攻を「無謀」と判断した。それは考察として正しいものであったし、力量を素直に判断した場合、特攻の持つ危うさを考えれば通常ありえない行動だ。

 万一避けられたなら無防備になる行動は通常、戦時下において死と直結する行為にほかならない。当てられず通過した無防備な背中は攻撃する側にとっては最早、単なる的でしかない。自身が頑健であるなしにかかわらずリスクが大きい。

 ヤックが手にしたのは取り回しの利く脇差だった。長刀を守りに回すには遅かったためだ。その判断は正しい。実際、突撃してくるミンケイボディーの鼻先に迎撃と防御の二通りの選択ができたのはその判断があったからに他ならない。

 唯一誤算があったとすれば、意を決して突撃してきたロウのミンケイボディーの動きがヤックの搭乗者の判断を一瞬であれ上回ったことである。

 弱ったミンケイボディーにもはや特攻の選択肢はない――。

 その人間らしい判断こそがこの致命的一瞬を演出した。

 脇差がミンケイボディーの上方すれすれを斬った。サーメット装甲の一部が鮮やかに切り取られる。

 しかし本来切り裂くべきであった本体は苛烈な刃を見事かいくぐり、穴の塞がっていないヤックの細腰を力づくで削り取っていた。

 かろうじて支えを保っていたヤックの身体は、開けられた穴の片一方をそこなったことでぐらりと傾いた。完全に分断されることを防いだことはさすがというより言葉がなかったが、軸を失ったヤックが傾いた体を立て直すのは最早不可能に見えた。

 

 『見事――』


 駆け抜けたミンケイボディーがその背後で聞いた言葉であった。流暢で、とても聴き慣れた、整った日本語だった。ロウは完全な勝利を確信して、滑走路の先端、双子の墜落したであろう現場へと急いだ。

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