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巨人再来の、1

 ロウは車体を大きくそのまま後退させてヤックとの距離をとった。

 そう言った意味で滑走路をきちんと整備した調布の飛行場跡地は優秀であった。凹凸のほぼ存在しない長い直線に歪みはなく全速力でぶつかっていくのにはまさに好都合だ。

 正直、もうロウの中での万策は尽きていた。武器が残っているとすればもはやこの頑強な機体だけだ。二十メートルの巨体同士、どちらが強いか勝負だ。

 嘘も隠しもなく、ロウはこのままヤックに向かって突撃することを決めていた。

 さっき急に思い出した矛盾の話をもう一度頭でおさらいする。

 どこかでこうなる予感があったのかもしれない。

 

 結局矛と盾、本当に同条件でぶつかったらどうなるだろうと思うね?

 

 盾が勝つといった自分に、博士はこう言ったはずだ。


 盾が勝つ?馬鹿を言うんじゃない。矛を持った方は殺す気でかかってくるんだ。そいつが本気であったなら貫く。――矛が勝つのがこの世の理だ、と。


 正確に言えばミンケイボディーは矛じゃないし、ヤックは盾じゃない。武器で例えるならこちらが棍棒でむこうは刀だ。

 視界にヤックがボロボロの姿で立っている。攻撃をしてこないのは動けないためかそれともこちらの出方待ちであるのか。黒い煙が複数、ヤックの機体から立ちのぼっている。腹部の修復が追いつかないとみえて腹の穴は開いたままだ。かろうじてつながっているだけの腹部は頼りなく、開いた穴からは向こうの景色が丸見えだ。あとほんの少しの衝撃を加えただけで、あわよくばその胴体を真っ二つにへし折ることができるかもしれない。

 「よくもあんな状態で槍を投げ切ったものだ」敵について感心している場合ではなかったが、思わずそんな言葉が口をついた。

 ミンケイバーの武器が声認証になっている理由を、ロウは機体の整備中に博士に訊いた事がある。

 武器を使うのには引き金を引くだけで済めば手っ取り早いし、ボタンを押すだけでいいならその方が楽だと思ったからだ。それよりなにより、武器を使うたびにいちいち叫ばなければならないという行為自体に疑問があった。

 それについて博士は声紋認証による安全性について理論的に説明をしてくれた後で、最後にひと言、

 「武器の名前を叫んだら、それだけでテンション爆上がりじゃろ?」と付け加えた。

 話を聞いていた他のメンバーもここぞとばかりに参加してきたため、その日は機体整備も中途のままに宴会に突入することになった。ミンケイではこの光景は珍しくない。およそ三日に一度はこんなふうに突然宴会が始まる。

 「武器の名前を叫ぶのはそんなにおかしいかね?わしだったらもう大喜びなんじゃけどな」

 「そうですね。俺も最初はかなりどうかと思ったんですが、今はかなり気に入ってます」鳳が目を輝かすと、今度は大地が「技が決まったときの爽快感が、いいよね、確かに」と半ば不承不承気味に呟いた。手にはビールの缶が握られている。

 「機械に気合なんてものが乗るとは思わないけど、乗ってる自分には乗るよね、気合!」右京が柑橘系の缶酎ハイを片手に笑う。

 「武器の名前にセンスがないのが、一周まわってウケる」と左京がニヤリと笑い、「いや、昭和真っただ中には刺さる!刺さりますよ!?」と自称二十四歳の大平が日本酒の一升瓶を片手に涙ぐむ。


 今でもロウは声紋認証型の武装について完全に納得はしていない。左京が言うように博士のつける武器の名前はどれもどことなく古めかしくてダサいし、それを大声で叫ぶ行為はいまだ多感な時期にある自分にとっては忌避したいところだ。

 ()()()()()――!

 ロウはミンケイボディーの狙いをヤックにつけて、アクセルを完全に底まで踏みつけた。

 急加速にタイヤが驚いて悲鳴を上げ、八本もある後輪が滑って滑走路に白煙を撒いた。

 宇宙へと向かうロケットのように勢いをつけたミンケイボディーがまっすぐにヤックへと向かって走る。

 「喰らえぇェえぇぇ――ッ!ミンケイ!轢き逃げクラァぁぁァぁァッシュッ!」

 

 気づけばロウはそう叫んでいた。気合いは、十分に乗っている。

 

 

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