転機の、11
ケイバーシューズに搭乗した右京と左京が報告のあった三鷹に現着したのは、ロウがヤックと幾度かのせめぎあいを演じた後だった。傍目で見れば膠着状態にも見える状態ではあったが、機体の損傷度合いを見る限り、ロウのミンケイボディーの方が不利であるのはあきらかだった。
対外Xに関する自衛隊機の戦闘記録を見た左京から言わせれば、ただの全長二十メートルのトラックVS高機動型ロボットの構図だ。正直ロウはよく凌いでいると思えた。
「――一方的に負けてんじゃん!気合い入れろアラタぁ!」
対して右京は一方的に傷だらけにされている様子のロウに対して辛辣な言葉を隠さない。彼女なりの激励でもあるのだが、厳しい言葉は時に素直に受け止めてもらえないことが多い。決して口が良いほうではない右京にそれでも友人や信奉者が多いのは単に彼女の人柄に依るところが多い。
実際右京の放った檄はしっかりとロウに届いたようだ。
「そんなに大声出さなくてもちゃんと聞こえてるって。インカムが壊れるからそれ以上怒鳴らないでくれよ」有視界の範囲であれば通信ができるようだ。しっかりとした答えが増援の二人の耳にも届いていた。
ケイバーシューズは左右で合体しての行動が可能だ。同じ機体同士インカム抜きでの会話もできる。
「右京ちゃん。アラタ君――じゃない、ロウ君少し印象変わった?」左京のいつも通りの細い声も合体していればきちんと聞こえる。
「――ああ。吹っ切れたんだろ。良いことじゃんよ」右京が愉し気に言葉を繰ったのが、左京にもわかった。それがどうにも胸につかえた。
「ねえ、右京ちゃんて、ロウ君のこと好きでしょ?」
それは、とても唐突だった。口走った左京でさえ、それが勢いから出てしまった不意のものだと理解し、後悔の欠片を覚えたほどだ。
「こんな時に何言ってんだ左京。気でも触れたか?」一見冷静に答えているように思える右京の口調がいつもと違うトーンでもって響いていることに彼女自身は気づいていないのだろうか。
「私たちって、可愛いのに出会い少ないよね?」
「双子で可愛いとか滅多にないのにな。ついてない時代に生まれたものだよね」
「――ほんと、ついてない」
「アラタが困ってるぞ。一丁あたしらの実力見せちゃいますか」
「そうだね。挟み撃ちして援護しよう」
合体していたケイバ―シューズが左右に別れた。空中を同じ角度で滑空するさまは幾度も修練を重ねたそれではない。双子ならではの阿吽の呼吸のなせる技と言えよう。
「ケイバァーッ!電磁砲ッ!」
右京と左京が同時に地上に向けて電磁砲を放った。ヤックが下手に動いた場合、すかさずロウは横槍を入れるつもりだったが、ヤックはロウのミンケイボディーから一切視線を切らずに電磁砲を体をひねるだけで躱してみせる。
「とんでもないな」
ミサイルに切り替えようとも考えたがそれはすでに遅かった。出しかけた文字通りの槍を、引っ込める。ここにきて、神宮寺が使用武器を減らした装備にしたことが裏目に出た。ミンケイボディーのロケットミサイルの残量がイエローゲージを示している。
「嘘だろ?まだ十発も撃ってないのに」
ほかに武器を探す。
ミンケイランサー――は、今先っぽから少しはみ出している。
ミンケイドリル――は、ランサーの代わりに外されているようだ。
飛び道具はないのかこのマシン――!
手元のパネルを探す。
ヒットしたのは――。
ミンケイウルトラデストロイボンバー戒ver2.0’
改じゃないのか――?それに――ver2.0’?
基本、合身して戦うことが多いミンケイバーだったから見逃したのか?いや、こんな名前からしてどうかしている武器は初めて見る。嫌な予感しかしない武器名に、ロウは戦慄を覚えた。
ミンケイバーの武器は、トリガー発射のバルカン以外は全て登録された人間の声紋認識での仕様になっている。
「僕が、このどうしようもないセンスの武器の名前を叫ばなきゃならないのか――?」
途轍もない絶望感が遥ローエングリンを襲った。
ぽかぽかを軽く通り越した日差しの中を半袖で歩く人たちを横目に、頭からつま先までフル装備で歩く私は嫌でも目を引くようで、ついに本日、憧れの職務質問を受けてしまいましたw